店舗の空調設計完全ガイド|業態別馬力選定・換気連動・室外機計画と費用相場

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この記事の要点

  • 店舗空調は 業務用エアコン(パッケージ型) が主流で、家庭用とは 能力(馬力)・冷媒回路・耐久性・電源方式 が根本的に異なる。10〜25万円/馬力が一般相場で、25坪規模の店舗で総額150〜400万円が標準レンジ
  • 馬力選定は 「面積+熱負荷+扉開閉頻度+客席数+業態固有の発熱量」 から計算する。坪あたり0.4〜0.8馬力が業界目安だが、飲食・サロン・物販・医療で 係数が1.5〜2倍 違う
  • 空調と 換気は連動設計 が欠かせません。建築基準法(換気量0.7〜1.0回/h以上)・労働安全衛生法(飲食店は20〜30㎥/h・人)の基準を満たし、冷暖房効率と空気質を両立させる
  • 室外機の設置場所は A工事(オーナー工事)範囲 になることが多く、物件選定段階で「室外機置き場のスペース」「騒音規制」「景観条例」を確認しないと、発注後に追加費用が発生する
  • 空調設計でつまずく典型例は 「業務用ではなく家庭用を選定して能力不足」「換気との連動を考慮せず冷暖房効率が低下」「室外機の置き場が確保できず追加配管」「冷媒規制を見落として後で交換義務」 の4類型
  • 空調工事の依頼先は 空調専門会社/内装会社の設備部門/設備設計士+施工会社 の3パターン。業態と規模により選び分け、馬力計算・換気連動・冷媒対応の実績数で判断する

店舗の空調は、客の快適性・スタッフの作業効率・食材や商品の温度管理・電気料金・近隣との騒音トラブルに直結する重要な設備です。家庭用エアコンの感覚で安易に選定すると、 真夏のピーク時に冷えない・電気代が想定の2倍・室外機の音で苦情・冷媒規制で交換が必要 といった問題が次々と発生します。本ガイドでは、これから店舗を出す発注者の視点で、空調設計の全体像・業態別のポイント・費用相場・依頼先の選び方を体系化しました。

本記事は店舗内装ドットコムが、業界一般の公開情報・建築基準法/労働安全衛生法/フロン排出抑制法の条文・国土交通省/経済産業省の公的資料・業務用空調メーカー各社の公開技術資料・自社プラットフォームの運営知見をもとに整理しています。最終的な馬力計算や設備選定は、業態・物件・地域条件で異なるため、必ず複数の空調会社・設備設計士から見積もりを受けて比較してください。

店舗空調設計とは|業務用と家庭用の違い・設計の役割

業務用エアコンと家庭用エアコンの構造比較 業務用エアコン(パッケージ型) 室内機 天井カセット 2-10馬力 室外機 三相200V/高出力 大型/屋外設置 冷媒配管 電源:三相200V 能力:5.6〜25kW(2〜10馬力) 設計寿命:13〜15年 本体価格:30〜150万円/台 耐久仕様:連続運転10時間以上 用途:店舗・オフィス・工場 家庭用エアコン(ルームエアコン) 室内機 壁掛形 2.2〜7.1kW 室外機 単相100V/200V 小型 冷媒配管 電源:単相100V/200V 能力:2.2〜7.1kW(〜2.5馬力相当) 設計寿命:10年 本体価格:5〜30万円/台 耐久仕様:1日数時間想定 用途:住宅・小事務所

図2:業務用と家庭用の構造・能力・寿命の根本的な違い

店舗空調設計は、 「業態に合った冷暖房能力を、適切な機種・配置・換気連動で実現する仕事」 です。単に「エアコンを何台付けるか」を決めるのではなく、業態固有の発熱量・扉の開閉頻度・客席数・厨房の排気・客の滞在時間など、 業務シーンに最適化した能力計算と機器配置 を設計します。

業務用エアコンと家庭用エアコンの根本的な違い

🏠 家庭用エアコン

能力2.2〜7.1kW
連続運転5〜10時間想定
電源単相100V/200V
耐久家庭使用10年
価格10〜30万円/台

🏪 業務用エアコン

能力3.6〜28kW(1.5〜10馬力)
連続運転10〜18時間/日対応
電源三相200V中心
耐久業務使用10〜15年
価格30〜120万円/台

業務用は家庭用と比べて 能力・耐久性・連続運転性能 が大きく違います。家庭用を店舗に転用すると、 夏のピーク時に能力不足、連続運転で故障が早く、電気契約の容量不足 といった問題が発生します。逆に業務用は初期費用が高い反面、ランニングコスト・耐久性で長期的に有利です。

店舗空調が果たす5つの役割

  1. 客の快適性:滞在時間・客単価・リピート率に直結する室温・湿度・気流
  2. スタッフの作業効率:厨房・バックヤードの労働環境(労働安全衛生法の基準値)
  3. 商品・食材の温度管理:物販の商品保管・飲食の食材保存・サロンの薬品保管
  4. 電気料金の最適化:適切な能力選定とインバーター制御で年間電気代を最適化
  5. 近隣との関係維持:室外機の騒音・振動・温風が周辺住民とのトラブル要因に

空調設計を誰が担当するか

店舗内装の空調設計は、案件規模により担当者が変わります。 30坪以下の標準業態 は内装会社の設備部門または提携空調会社が一括で設計・施工する形が多く、 40坪以上または特殊業態(医療・大型飲食・スポーツ施設) は設備設計士が独立して設計し、空調会社が施工する分業体制が一般的です。設計と施工の発注パターンは 店舗設計の完全ガイド も参照してください。

業務用空調は 「機器選定→配置設計→ダクト/配管設計→電気容量設計→換気連動→施工→試運転調整」 という多段階のプロセスで成立します。1ステップでも省略すると、夏のピーク時に「思ったより冷えない」「ムラがある」「電気代が高い」といった問題が後から判明します。

業務用空調の種類と特徴|パッケージ・中央熱源・ビル空調

業務用エアコン4形状(4方向天井カセット・天吊・壁掛・ビルトイン)の比較 天井埋込 4方向天井カセット 飲食・物販・サロン主流 2-10馬力/均一気流 採用率★★★★★ 天井吊形 配管が梁を渡れる物件 3-10馬力/工場・店舗 採用率★★★ 壁掛形 小規模/既存物件向け 1.5-3馬力/補助・小室 採用率★★ 空気吹出 ビルトイン形 天井裏ダクト併用 3-8馬力/高級店向け 採用率★★

図1:業務用エアコン4形状の特徴と採用率(店舗内装での使用頻度を主観評価)

業務用空調は大きく 3タイプ に分かれ、物件の種類とテナントの規模で選択肢が変わります。

3タイプの基本構造

タイプ 構造 向く物件 特徴
パッケージ型 室外機+室内機(個別) 路面店・小規模ビル テナントで自由設計可能
中央熱源式(セントラル) 建物の熱源から各テナント分配 大型商業施設・ビル テナントは温度制御のみ
マルチ型(ビル空調) 1つの室外機で複数室内機 中規模オフィスビル 配管がシンプルで省スペース

パッケージ型エアコン(最も一般的)

路面店・中小規模テナントで最も使われる 個別式の業務用エアコン です。室外機と室内機が1対1で対応し、テナントごとに独立して稼働します。 機種選定の自由度が高く、テナント側でメーカー・能力・形式を選べる のが利点です。

室内機の形式は 4方向天井カセット形・1方向天井カセット形・天吊形・床置形・壁掛形 の5タイプがあり、店舗のレイアウトと意匠に合わせて選びます。気流を均等に分散したいなら4方向カセット、デザイン重視で隠したいなら天井埋込ダクト形、視線に入らない位置を選ぶなら壁掛形、というように使い分けます。

中央熱源式(セントラル空調)

大型商業施設・複合ビルで採用される、 建物全体の熱源機(冷却塔・ボイラー)から各テナントに冷温水を分配する方式 です。テナント側は分配された冷温水でファンコイルユニットを動かし、温度制御のみを行います。

テナントの自由度は低く、 建物オーナーの定めた仕様の中で運用する 形になります。一方で、共用部の熱源設備のため初期費用がテナント負担に乗りにくく、メンテナンスも建物オーナー側が実施する利点があります。テナント側で個別の機種選定はできませんが、運用コストは比較的安定します。

マルチ型ビル空調

1つの大型室外機で複数の室内機を稼働させる方式で、 10〜30坪規模のオフィス・物販テナント に向いています。配管が省スペース化でき、室外機置き場のスペースが限られる物件に有利です。冷暖房同時運転(ヒートリカバリー型)を選べば、夏は冷房・冬は暖房を効率よく切り替えられます。

パッケージ型 vs マルチ型の判断は 「テナント面積・室内機数・室外機置き場のスペース」 の3軸で決まります。20坪以下で室内機4台までならパッケージ型、30坪以上または室内機5台以上ならマルチ型のほうが効率的なケースが多くなります。

業態別の馬力選定ロジック|熱負荷計算と必要冷暖房能力

業態別の坪あたり必要馬力レンジ(横棒) 業態別 坪あたり必要馬力レンジ(HP/坪) 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 馬力/坪(HP/坪) 焼肉・鉄板焼 0.7〜1.2 焼鳥・串焼き 0.6〜1.0 ラーメン・中華 0.6〜0.9 居酒屋・和食 0.5〜0.8 カフェ・洋食 0.4〜0.7 サロン・美容 0.4〜0.6 クリニック 0.4〜0.6 物販・オフィス 0.3〜0.5

図4:業態別 坪あたり必要馬力レンジ(業界目安/物件・季節条件で変動)

業務用エアコンの能力選定は 馬力(HP) で表され、1馬力=2.5kW(冷房能力換算)が業界基準です。馬力選定で最も重要なのは、 業態固有の熱負荷 を正しく計算することです。

馬力選定の基本式

業務用空調の馬力は、面積だけで決まるわけではありません。以下の5要素を加味した熱負荷計算で確定させます。

  • ① 面積要素 坪あたり0.4〜0.8馬力(業態で変動)
  • ② 熱負荷要素 機器・人体・照明・日射からの発熱量
  • ③ 扉開閉要素 頻度に応じた外気流入量の変動
  • ④ 業態係数 1.0〜2.0倍の補正(厨房・サロン等)

業態別の馬力目安(30坪換算)

業態 坪あたり馬力 30坪での総馬力 主な熱負荷要因
物販・アパレル 0.4〜0.5馬力 12〜15馬力 客の出入り・照明発熱
オフィス 0.4〜0.5馬力 12〜15馬力 PC機器発熱・人体
カフェ・喫茶 0.5〜0.7馬力 15〜21馬力 エスプレッソマシン発熱
レストラン・居酒屋 0.6〜0.8馬力 18〜24馬力 厨房発熱・客密度高い
焼肉・鉄板焼き 0.8〜1.2馬力 24〜36馬力 無煙ロースター・各卓発熱
美容室・サロン 0.5〜0.7馬力 15〜21馬力 ドライヤー発熱・薬品換気
クリニック・歯科 0.5〜0.7馬力 15〜21馬力 医療機器発熱・感染対策
フィットネス・ジム 0.7〜1.0馬力 21〜30馬力 人体発熱・運動量大

馬力計算の補正要素

表の坪あたり馬力はあくまで目安で、 物件条件により1.2〜1.5倍の補正 が必要です。補正要因は次の通りです。

  • 方位・日射:南向き・西向きの大開口部は冷房負荷が1.2倍に
  • 天井高:3.5m以上の高天井は1.2〜1.4倍の馬力が必要
  • 断熱性能:築古物件・断熱なし窓は1.2〜1.5倍に
  • 外気流入:自動ドア・大開口入口は1.1〜1.3倍に
  • 機器発熱:厨房機器・PC機器・照明の発熱量で個別補正
馬力計算は 「夏のピーク日(外気37℃)に冷房能力が不足しないこと」 を基準に決めます。能力ぎりぎりで設計すると、猛暑日に冷えない事態が発生します。逆に過剰な馬力は初期費用とランニングコストの両方を押し上げるため、 余裕率10〜20% を見込むのが業界の標準です。
店舗空調の熱負荷を構成する5要素 熱負荷を構成する5要素(冷房時) 面積 40% 人体 15% 機器 20% 外気 15% 日射 10% 面積熱負荷(約40%) 床面積×業態係数(200〜450W/㎡) 機器発熱(約20%) エスプレッソ・冷蔵庫・PC・厨房機器 人体発熱(約15%) 客+スタッフ×100〜120W/人 外気流入(約15%) 換気量×温度差×0.34 日射熱(約10%) 開口部×方位係数×500〜800W/㎡

図5:熱負荷の構成要素と概算比率(冷房ピーク時/業態により変動)

熱負荷計算の公式と各項目の係数

馬力選定の根拠となる「総熱負荷」は、店舗内で発生・流入する熱を5つの要素に分解して合算する考え方です。本ガイドでは、空調設計の現場で広く使われている簡易計算式を整理します(実際の設計では空調会社・設備設計士が物件・地域条件を加味して精密計算します)。

公式(冷房ピーク時の総熱負荷):
総熱負荷(W)= 面積熱負荷 + 人体発熱 + 機器発熱 + 外気流入熱 + 日射熱
馬力換算:必要馬力(HP)= 総熱負荷(W)÷ 2,500

「÷2,500」は「1馬力あたり概ね2.5kW(2,500W)の冷房能力」という業界目安に基づきます。実際の業務用パッケージエアコンは2馬力=5.6kW、3馬力=7.1kW、5馬力=14.0kW、10馬力=28.0kWといった刻み(メーカー仕様)になっており、計算結果に1.1〜1.2倍の余裕率を見込んで切り上げ選定するのが一般的です。

各項目の計算式

項目 計算式 係数の目安
面積熱負荷 床面積(㎡)× 業態係数 物販200/オフィス220/サロン220/クリニック280/カフェ250/居酒屋320/ラーメン380/焼肉420 W/㎡
人体発熱 在室人数 × 単位発熱 事務作業100/立位120/給仕150/調理180 W/人
機器発熱 機器の消費電力合計 × 0.7〜1.0 エスプレッソ1,500W/業務用冷蔵庫600〜1,200W/製氷機400〜800W/PC150W/ドライヤー800〜1,200W
外気流入 換気量(㎥/h)× 室内外温度差(℃)× 0.34 飲食20〜30㎥/h・人/物販10〜20㎥/h・人/温度差は夏10℃で計算
日射熱 開口面積(㎡)× 方位係数 × 透過熱量 南1.0/東西0.6/北0.4 × 500〜800 W/㎡(ガラス種類で変動)

業態別 熱負荷計算の例(3パターン)

同じ「30坪」でも業態が違えば必要馬力は2倍以上変わります。代表的な3業態で実際に計算してみます。坪→㎡換算は1坪≒3.3㎡で計算します。

例①:30坪カフェ(席20・スタッフ5・南向き開口)

・面積熱負荷:99㎡ × 250W/㎡ = 24,750W
・人体発熱:客20名×120W + スタッフ5名×150W = 3,150W
・機器発熱:エスプレッソ1,500W + 業務用冷蔵庫800W + 製氷機500W + POS/照明等1,000W = 3,800W
・外気流入:換気500㎥/h ×10℃ × 0.34 = 1,700W
・日射熱:開口5㎡ × 0.5 × 600 = 1,500W
合計=34,900W ÷ 2,500 = 14.0HP(必要馬力)

余裕率1.15を見込むと約16HPとなり、実機は5馬力天井カセット×3台または8馬力+5馬力×1台の組み合わせで配置するのが典型です。坪あたり0.47HPで、本ガイドのカフェレンジ(0.4〜0.7HP/坪)の中央値に位置します。

例②:30坪焼肉店(卓10・客40・スタッフ8・無煙ロースター卓上)

・面積熱負荷:99㎡ × 420W/㎡ = 41,580W
・人体発熱:客40名×120W + スタッフ8名×150W = 6,000W
・機器発熱:無煙ロースター8卓×3,000W(ダクト排煙で60%排除後)= 9,600W
・外気流入:換気1,500㎥/h ×10℃ × 0.34 = 5,100W
・日射熱:開口6㎡ × 0.6 × 700 = 2,520W
合計=64,800W ÷ 2,500 = 25.9HP(必要馬力)

余裕率1.20で約31HPとなり、10馬力室外機×3台+5馬力×1台などで構成します。坪あたり0.86HPと高く、無煙ロースターの排煙ダクトに連動した給気経路設計(換気で約5,100W分を処理)が前提条件です。給気不足だと負圧で扉が重くなり、排煙も効かない悪循環に陥ります。

例③:20坪サロン(施術席6・スタッフ4・東向き開口)

・面積熱負荷:66㎡ × 220W/㎡ = 14,520W
・人体発熱:客6名×100W + スタッフ4名×150W = 1,200W
・機器発熱:ドライヤー900W×3 + 美容機器500W + PC等400W = 3,600W
・外気流入:換気200㎥/h × 10℃ × 0.34 = 680W
・日射熱:開口4㎡ × 0.6 × 600 = 1,440W
合計=21,440W ÷ 2,500 = 8.6HP(必要馬力)

余裕率1.10で約9.5HPとなり、5馬力+4馬力の2台構成、または8馬力1台+壁掛け補助1台が現実的です。サロンは長時間滞在(カット60分・カラー2時間)でも快適温度を維持する必要があり、一般オフィスより面積係数を1.1倍に取るのが目安です。坪あたり0.43HPと、サロンレンジ(0.4〜0.6HP/坪)の中央〜下限に該当します。

3例とも数値は概算です。実際の現場では「天井高(4m以上は係数アップ)」「断熱性能(外壁断熱の有無で±15%)」「窓ガラスの種類(複層・Low-E)」「営業時間帯のピーク」「立地(最上階・西日)」を加味して設備設計士が精密計算します。本記事の数式はあくまで「複数社の見積もりを比較する際に、馬力過大/過小の判断軸を持つため」の目安としてください。

簡易馬力シミュレーター(業態×面積×客席数)

上記の計算式をベースに、業態と店舗規模を入力すると必要馬力と概算費用レンジが即座に算出される簡易シミュレーターを用意しました。あくまで概算ですが、見積もり比較時に「この業態・この広さなら○HP前後が妥当」という判断軸として活用できます。

🧮 業態別 必要馬力シミュレーター



店舗空調3方式(パッケージ・セントラル・マルチ)の系統図 パッケージ方式 室内機A 室内機B 室外機A 室外機B 1対1(個別運転) 小〜中規模店舗 部屋ごとに独立制御 配管短/費用安 坪3〜6万円 マルチ方式 室内A 室内B 室内C 1台の 室外機 中〜大規模/オフィス 室外機1台で多室空調 設置スペース節約 坪5〜10万円 セントラル方式 中央熱源(チラー・ボイラー) FCU FCU FCU 商業ビル全体/大型施設 熱源を集中管理 配管網が大規模 テナントは賃料に内包

図3:3空調方式の系統と適用規模・概算コスト

業態別の空調設計ポイント|飲食・物販・サロン・医療・オフィス

馬力選定だけでは空調設計は完成しません。業態ごとに 「気流の作り方・温度ゾーンの分け方・湿度管理・特殊要件」 が異なるため、業態固有の設計論点を理解することが品質を分けます。

飲食店の空調設計ポイント

飲食店は 客席エリア・厨房エリア・出入口エリア で温度ゾーンが3つあり、それぞれ独立した制御が必要です。客席は22〜25℃、厨房は労働安全衛生法基準の28℃以下、出入口は外気流入対策のエアカーテンが標準です。

  • 客席エリア:客の滞在快適性を優先。ピーク時の発熱(人体100W/人+照明+料理)を加味して馬力選定
  • 厨房エリア:排気フードの吸引で負圧になるため、空調能力ではなく 給気バランス がカギ。空調と排気を連動制御しないと冷えない
  • 出入口:自動ドア・引き戸の開閉頻度で冷房負荷が1.2〜1.4倍に。エアカーテンや風除室の設計で改善
  • 季節変動:冬の鍋料理・夏のかき氷など季節商品は厨房発熱量が大きく変動。ピーク負荷で設計

厨房設計の詳細は 業務用厨房設計ガイド を参照してください。

物販・アパレルの空調設計ポイント

物販店は 客の滞在時間と試着室の温度差 がポイントです。試着室は本体客席より2〜3℃高め(暖房時)または同等(冷房時)に設定し、客が衣服を試着しても寒くない環境を作ります。

  • 商品保管:レザー製品・革靴・衣類は湿度50〜60%を維持。湿度管理機能のある業務用エアコンが推奨
  • 大開口部:路面店のショーウィンドウは日射熱負荷が大きく、UVフィルム+空調強化のセット設計
  • 試着室:個別の換気と空調を独立させ、客の滞在快適性とプライバシーを両立
  • 商品展示:天井近くに熱がこもると商品が変色するリスクがあり、上下の気流循環を意識

美容室・サロンの空調設計ポイント

美容室は 薬品換気+ドライヤー発熱 の同時対応が欠かせません。パーマ液・ヘアカラー剤の有機溶剤を排出する局所換気と、シャンプー台周辺の温水ミストによる湿度上昇を、空調と連動して制御します。

  • カット席:客の頭部周辺に気流が直接当たらない位置に室内機を配置。気流ムラで「冷えすぎ」「のぼせ」が発生
  • シャンプー台:仰向け姿勢の客は頭が冷えやすいため、シャンプーエリアは温度を1〜2℃高めに設定
  • 薬品換気:労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則に基づき、薬品使用エリアは換気量を強化
  • ドライヤー発熱:複数台同時稼働でピーク時に1台あたり1,000〜1,500Wの発熱が空調負荷に上乗せ

クリニック・歯科の空調設計ポイント

医療系の空調は 感染対策・診療動線・医療機器の発熱 の3要素を統合設計します。一般診療室・処置室・滅菌室・待合室で温湿度の基準が異なり、ゾーン別の独立制御が前提です。

  • 診療室:温度22〜26℃、湿度40〜60%、外気導入の強化(CO2濃度1000ppm以下を維持)
  • 処置室・手術室:陽圧/陰圧の気流制御で感染拡大を防止。空調と換気は専門設計
  • 待合室:感染症患者と一般患者の動線分離に合わせ、独立空調または分離気流
  • 滅菌室:高温多湿環境の機器(オートクレーブ)に対応し、湿度上昇対策を強化
  • 歯科ユニット:複数ユニット同時稼働で電気負荷とエア発生量が変動

オフィス・コワーキングの空調設計ポイント

オフィスは PC機器発熱と座席密度 が中心論点です。1人あたり3〜5㎡(執務)・2〜3㎡(フリーアドレス)の座席配置で、座席数×PC発熱量を加味した馬力選定を行います。

  • PC・OA機器:1台あたり100〜300Wの発熱。座席数×機器数で総発熱量を計算
  • 会議室:使用頻度がムラ大きく、人感センサー連動の個別制御が省エネに有利
  • フリーアドレス:座席数の変動に対応するため、ゾーン別の独立制御が望ましい
  • サーバールーム:精密機器の温湿度管理(22℃前後・45〜55%)に専用空調を分離
業態別ポイントは 「気流の作り方」「温度ゾーン」「湿度管理」「特殊要件」 の4軸で整理されます。設計者を選ぶ際は、自分の業態に近い過去事例数(できれば3件以上)を確認するのが、業態固有の論点を抑える最良の方法です。

業態別の空調設計|重要論点の詳細

業態別に押さえておきたい設計論点を、店舗オーナー目線でさらに掘り下げます。同じ「飲食」でも、ラーメン店と寿司店では空調の考え方がまったく違います。複数の内装会社・空調会社から見積もりを取る際に、以下の観点で提案内容を比較してください。

飲食業態:客席と厨房の温度差対策

飲食店で頻発するのが「客席は涼しいのに厨房は灼熱」「逆に客席のドラフトが強すぎて寒い」という温度ムラの相談です。原因の多くは、厨房排気と客席空調を独立系統で設計せず、客席用エアコンの吸込側に厨房気流が回り込む配管経路にあります。客席と厨房は熱負荷が桁違いなので、空調系統を完全分離して厨房側に専用の補助冷房(スポットクーラー1〜3HP)を入れる設計が定石です。さらに焼肉・天ぷら・中華のような高熱源業態では、無煙ロースターやレンジフードの排気量に合わせて補給気(給気)量を厨房側に増配することで、客席側の負圧化を防ぎます。

物販業態:日射と扉開閉の取り扱い

物販・小売の空調設計で見落とされやすいのが「日射熱負荷」と「扉開閉による外気流入」です。路面店で南向き・西向きの大型ガラス面がある場合、夏期の日射熱負荷だけで通常の倍近い冷房能力が必要になることもあります。Low-Eペアガラス・遮熱フィルム・庇(ひさし)の追加で日射熱を50〜70%カットできるため、空調容量を抑える方が長期コストで有利です。商品劣化を避けたい衣料品店・革製品店では、湿度40〜55%への管理、温度ムラ±1℃以内が望ましく、デシカント空調の併用も検討対象になります。

サロン・美容業態:パーマ液とドライヤー熱への対応

美容室・サロンでは、パーマ液・カラー剤の薬品臭、ドライヤー4〜6台の熱風、シャンプー台周辺の湿気が同時並行で発生します。客席側のエアコン1系統で全部をカバーしようとすると、ドライヤー席だけ局所的に高温になりがちです。スタイリング席・シャンプー台・カラー剤調合室で空調吹出口を分けるか、スポット冷風機を併用する設計が安定します。臭気対策としては第1種換気+活性炭フィルター付き給排気で、退店後30分で残臭ゼロを目標にします。

医療業態:清浄度クラスと温湿度管理

クリニック・歯科・整体院では、待合室・診察室・処置室・X線室で求められる温湿度・清浄度が異なります。一般診察室はISO Class 8相当・温度22〜26℃・湿度40〜60%、外科処置室はISO Class 7以上・温度20〜24℃・湿度40〜55%が一般的な目安です。手術を行う場合は陽圧管理(第2種換気)が必要となり、空調機にHEPA・MEPAフィルターを組み込むなど、一般店舗とは別カテゴリの設計になります。歯科のように水使用が多い業態では、湿気の天井裏滞留によるカビ発生にも注意が必要です。

オフィス業態:人員密度と機器発熱の二段階設計

オフィス・コワーキングスペースでは、執務エリアの人員密度(1人あたり3〜5㎡)と、サーバー・複合機・モニターの機器発熱が空調負荷の主要因です。1人あたり100〜150W+PC1台80〜120Wで、20席のオフィスなら4〜5kW(1.5〜2HP相当)の人体・機器発熱だけで発生します。会議室は使用時のみ発熱が急増する特性があるため、メイン執務エリアと会議室で空調系統を分け、会議室はセンサー連動でON/OFFする省エネ設計が標準的です。

換気との連動設計|建築基準法・労働安全衛生法・換気量計算

換気3方式の気流図 換気の3方式(建築基準法) 第1種換気 給気・排気とも機械 飲食・物販・オフィス全般 第2種換気 給気は機械・排気は自然 隙間 から自然 排気 クリーンルーム・手術室 第3種換気 給気は自然・排気は機械 隙間 から 自然給気 飲食店厨房・トイレ

図6:換気3方式の気流方向と店舗における代表用途

店舗空調は 換気と一体で設計 しないと、能力があっても冷暖房効率が落ちます。換気量が不足すれば室内CO2濃度が上昇し、過剰換気は冷暖房負荷を増やします。法令基準と業態要件を加味した換気量計算が必要です。

換気量の法令基準

適用法令 対象 換気基準
建築基準法 居室全般 換気量0.7〜1.0回/h以上
労働安全衛生法(事務所) 事務所・オフィス CO2濃度1000ppm以下
労働安全衛生法(飲食店) 飲食店スタッフエリア 換気量30㎥/h・人
食品衛生法 飲食店厨房 適切な換気・排気
有機溶剤中毒予防規則 美容室・印刷など 局所換気+全体換気
ビル管法(特定建築物) 3,000㎡以上のビル 温湿度・CO2の継続管理

換気方式の3パターン

  • 第1種換気:給気・排気とも機械換気。最も制御性が高く、業態固有の気流設計が可能。商業施設・大型店舗で標準
  • 第2種換気:給気のみ機械、排気は自然。クリーンルームや滅菌室など正圧を維持したい空間で使用
  • 第3種換気:排気のみ機械、給気は自然。トイレ・調理場など臭気を排出したい空間で標準

空調と換気の連動設計

業務用空調には 「全熱交換器」 という換気装置を組み合わせるのが業界標準です。全熱交換器は 排気の熱と湿度を給気に移し替えて、外気導入による冷暖房ロスを最小化 します。冬は冷たい外気を一旦温めてから室内に入れ、夏は暑い外気を一旦冷やしてから入れる構造です。

導入により冷暖房効率が15〜30%改善し、年間電気代で 20〜40% の削減効果が見込めるケースもあります。一方、初期費用は1台あたり30〜80万円の追加が発生するため、店舗規模・営業時間・年間電気代から投資回収を判断します。

業態別の換気量目安(30坪換算)

業態 換気回数/h 必要換気量 補足
物販・オフィス 3〜6回/h 700〜1,400㎥/h 建築基準法の最低基準+α
飲食店(客席) 8〜15回/h 2,000〜3,500㎥/h 客密度高く臭気対策
飲食店(厨房) 20〜40回/h 業態により大幅変動 排気フード性能で算定
焼肉・鉄板焼き 30〜50回/h 超強化換気 無煙ロースター連動
美容室・サロン 10〜15回/h 薬品エリア局所換気 有機溶剤対策
クリニック 6〜12回/h ゾーン別制御 感染対策で強化
換気量を増やすほど空気質は良くなりますが、冷暖房負荷も増えます。 「法令基準+業態固有の上乗せ」 でバランスを取り、過剰換気にならない設計が省エネと快適性の両立につながります。

厨房換気の計算フローと給気経路の設計

飲食店厨房の換気設計は、火を使う調理機器(コンロ・オーブン・グリラー等)の発熱量とフード形状から決まります。標準的な厨房換気量の計算は「フード周囲フード長×フード前面風速×補正係数」で求められ、ガスコンロなら毎時1,500〜3,000㎥、中華レンジなら毎時3,500〜6,000㎥、無煙ロースター(焼肉)なら毎時800〜1,500㎥/卓が目安です。換気量だけ計算しても、それと同量の給気を確保しないと、客席ドアが重くて開かない・吸気不足で換気扇が逆流する・換気扇のうなり音が大きくなるといったトラブルが発生します。給気は強制給気(第1種換気の機械給気)か、給気ガラリ+外気導入ダクトで確保するのが標準です。

シックハウス対策と居室の換気回数規制

2003年施行の建築基準法改正で、居室には1時間あたり0.5回(住宅)または0.3回(店舗・事務所)の換気が義務化されました。延床50㎡(天井高2.7m)の店舗なら、最低でも毎時40㎥の常時換気が必要になります。空調機に外気導入機能を組み込む方式と、独立した換気扇を設置する方式があり、計画段階で方式を確定させないと、開業前検査(特定建築物の届出)で追加工事が発生するリスクがあります。

厨房・トイレ系統と一般居室系統の分離

飲食店の換気設計で最も重要なのが「厨房系統」「トイレ系統」「客席(居室)系統」を独立配管で設計することです。系統を共通化すると、トイレの臭気が客席に流入したり、厨房油煙がエアコン熱交換器に入り込んで故障の原因になったりします。建築基準法上もダクト系統の分離が標準仕様で、設計段階で「3系統独立」を内装会社・空調会社に明示要求してください。

空調設備の費用相場|業態別・規模別の坪単価レンジ

店舗空調の費用は、 機器本体+取付工事+配管工事+電気工事+換気連動 の合計で構成されます。業態と規模で大きく変動するため、業態別の相場感を整理します。

業務用空調の単価相場

10〜25万円
1馬力あたり総額
30〜120万円
機器本体(馬力により)
10〜30%
取付工事(本体比)
5〜15%
配管・電気工事

業態別の空調総額目安(30坪換算)

業態 必要馬力 空調総額 坪単価
物販・オフィス 12〜15馬力 150〜300万円 5〜10万円/坪
カフェ・喫茶 15〜21馬力 200〜400万円 7〜13万円/坪
レストラン・居酒屋 18〜24馬力 250〜500万円 8〜17万円/坪
焼肉・鉄板焼き 24〜36馬力 350〜700万円 12〜23万円/坪
美容室・サロン 15〜21馬力 200〜400万円 7〜13万円/坪
クリニック・歯科 15〜21馬力 250〜500万円 8〜17万円/坪
フィットネス・ジム 21〜30馬力 300〜600万円 10〜20万円/坪

費用構造の内訳

空調総額が 「機器本体60〜70%+取付工事15〜25%+配管/電気工事10〜15%+換気連動5〜10%」 で構成されるのが業界標準です。見積書で内訳が出ていない場合、後の追加費用や仕様変更で揉める原因になるため、 項目別の明細請求 を必ず行います。見積書チェックの詳細は 見積比較ガイド を参照してください。

初期費用とランニングコストのバランス

業務用空調は 初期費用が高く、ランニングコスト(電気代)が長期的にきく 構造です。インバーター制御の高効率機を選べば初期費用は10〜20%増ですが、年間電気代を 15〜30% 削減できます。10年運用前提なら、高効率機のほうが総コストで有利になることが多いです。

空調の見積もりは「ぱっと見の総額」だけで判断せず、 「機種型番・能力(kW)・APF値(年間効率)・保証期間・メンテ条件」 を比較表にして3社で並べると、最適解が見えてきます。価格だけを優先すると、ランニングコストや故障対応で後から痛い目を見ます。

業態別の費用相場(具体例)

業態別にもう少し踏み込んだ費用感を示します。同じ20坪でも、業態ごとに必要な空調能力・換気量・系統構成が異なるため、総工事費は2倍近い開きが出ます。

カフェ・喫茶店(20坪)

本体5HP×1〜2台+3HP×1台+第1種換気で、空調・換気合計の総工事費は130〜220万円程度。客席数20席前後で、ドアの開閉頻度が高い路面店ではやや多めの能力選定が必要です。エスプレッソマシンの発熱量(200〜400W)は通常、機器発熱として加算されます。

居酒屋・ダイニングバー(30坪)

厨房側の高熱源(ガスコンロ・グリラー)と客席側の喫煙対応で、空調・換気合計250〜450万円が一般的。客席系統と厨房系統を分離し、厨房側に専用の補助冷房を配置する設計です。喫煙可の店舗は分煙ダクト・脱臭装置を含めると+50〜120万円。

焼肉店(30坪)

無煙ロースター8〜10卓+客席系統+厨房系統で、空調・換気合計400〜700万円のレンジ。卓ごとの排気ダクト工事が大きな比重を占め、無煙ロースター本体(80〜150万円/8卓)は別途計上されます。陽圧バランス(給気量>排気量)で外気流入を制御する設計が標準です。

美容室・サロン(25坪)

客席系統+シャンプー台+カラー剤調合室の3系統で、空調・換気合計150〜260万円程度。臭気対策として活性炭フィルター付き第1種換気を選ぶと+20〜50万円。ドライヤー席のスポット冷風機は1台あたり10〜18万円。

空調工事費の内訳と相場感

空調工事の見積書は、本体機器代・配管工事代・電気工事代・撤去費・諸経費の5要素で構成されます。20坪・5HP相当のクラスで内訳の目安を示すと、本体機器(室外機+室内機)が60〜120万円、配管工事(冷媒配管・ドレン配管・断熱・架台)が25〜50万円、電気工事(専用回路・分電盤改修)が15〜35万円、既存撤去・処分費が5〜15万円、諸経費・現場管理費が10〜20万円といったレンジです。総額で115〜240万円幅となり、業態と物件状況で同規模でも倍近い差が出ます。

規模別 空調工事費の坪単価レンジ

規模 飲食(標準) 飲食(高熱源) 物販・サロン クリニック
10坪 坪7〜10万円 坪9〜13万円 坪5〜8万円 坪8〜13万円
20坪 坪6〜9万円 坪8〜12万円 坪4〜7万円 坪7〜11万円
30坪 坪5〜8万円 坪7〜11万円 坪4〜6万円 坪6〜10万円
50坪 坪5〜7万円 坪6〜10万円 坪3〜6万円 坪6〜9万円
小規模ほど坪単価は割高になります。本体機器の最小単位(3HP〜5HP)の制約により、10坪で必要な能力でも本体価格を半分にはできないためです。逆に30坪以上では、室外機を集約することで坪単価を圧縮できる余地があります。

室外機の設置計画|A工事範囲・スペース・騒音規制

室外機の設置に必要なスペース(平面図) 室外機の設置スペース(平面図/メーカー推奨値の例) 建物外壁 室外機 5馬力相当 前方 300mm以上 サービス 200mm 背面 100mm メンテ用 600mm以上 確認すべき5項目 ① 隣家/窓との距離(騒音) ② 排熱方向(向かいの壁) ③ 配管経路(室内まで) ④ 床荷重(屋上設置時) ⑤ 景観条例(外観)

図7:室外機1台あたりの設置スペース(5馬力クラス/前方300・背面100・側方200・メンテ600以上を推奨)

業務用空調で見落としがちなのが 室外機の設置計画 です。室外機は1台あたり1〜2㎡のスペース、十分な放熱距離、騒音規制への対応が必要で、物件選定段階で確認しないと開業後にトラブルになります。

室外機の設置に必要な条件

  1. 設置スペース:1馬力あたり0.3〜0.5㎡、25坪規模で5〜10㎡が目安
  2. 放熱距離:室外機の前後に1.5〜2m、左右に0.5m以上の空気循環スペース
  3. 地面または屋上の耐荷重:1台あたり80〜200kg、複数台で総重量計算
  4. 配管距離:室外機-室内機間が標準20〜30m以内、超えると追加配管費が発生
  5. 電源容量:三相200V電源、馬力により15〜45A/台の容量が必要
  6. 騒音対策:自治体の騒音規制(住居地域55dB、商業地域65dB等)の遵守

室外機の設置場所と工事区分

室外機の設置場所は 「物件のどこに置けるか」「誰の所有エリアか」 で工事区分が変わります。

設置場所 工事区分 注意点
物件外の地面 B工事(指定業者) 敷地内かオーナーの許可が必要
建物の屋上 B工事(指定業者) 耐荷重・搬入経路・他テナント影響
専用バルコニー C工事(テナント) スペース確保が容易
テナント内の機械室 C工事(テナント) 換気と防音が必要

騒音規制と近隣対策

室外機は 運転時に40〜60dB の騒音を発生します。複数台が同時稼働する商業施設では、 夜間(22時〜翌6時)の規制 に特に注意が必要です。住宅街隣接の物件では、防音壁・低騒音機種・運転時間帯の制限などの対策が求められることがあります。

景観条例と外観への配慮

商業地域・観光地・歴史地区では、 室外機の外部からの視認性 に景観条例が適用されることがあります。建物のファサードから見える位置に室外機を置く場合、目隠しルーバー・色味調整・配置変更が必要になり、追加費用が発生します。物件選定時に景観条例の有無を確認しましょう。物件タイプ別の留意点は 物件タイプ別ガイド を参照してください。

室外機の設置計画は 物件契約前 に確認すべき最重要項目の1つです。物件によっては「室外機の置き場所がない」「指定の場所しか使えず追加配管30m必要」「夜間運転禁止で営業時間制限」など、後から判明すると大きな問題になります。物件内見時に「室外機予定場所」を必ず確認します。

室外機の騒音・振動対策の基準

室外機の運転音は、5HP級で55〜60dB、10HP級で60〜65dB、20HP級で65〜70dB程度です。住居系用途地域では夜間(22〜翌6時)の騒音規制値が40〜45dB(地域により異なる)なので、隣地境界まで5m以上離すか、防音パネル・防音ルーバー・防振架台を組み合わせる必要があります。商業地域でも、居住者の窓やバルコニーに直接対面する位置は避け、トラブル防止のため事前にビル管理会社・テナント管理会社へ設置計画を提出するのが標準フローです。

マンション1階・複合ビル・商業施設の室外機制約

マンション1階や複合ビルテナントでは、管理規約で「外観上目立つ位置への室外機設置禁止」「専用バルコニー以外への室外機禁止」など、設置場所に物理的・契約的制約がかかることが多くあります。物件契約前に、室外機の設置可能箇所・最大台数・配管ルートを必ず確認してください。商業施設テナント(ショッピングモール内など)では、室外機は施設側の集合室外機置場(屋上)への設置となり、配管延長費用(往復30〜80mで30〜100万円増)や配管経路の制約が発生します。

工事区分と発注パターン|A工事・B工事・C工事の境界

工事区分A・B・Cの境界(建物断面) 工事区分A・B・Cの境界(建物断面イメージ) 屋上 / 共用部 室外機 テナント区画(B工事+C工事) A工事範囲 ・建物本体構造 ・共用配管/本管 ・屋上室外機置場 ・幹線電気・給水 費用:オーナー負担 B工事範囲 ・テナント要望で発生 ・配管/配線分岐 ・空調本体(指定施工) ・分電盤増設 費用:テナント負担/指定業者 C工事範囲 ・内装仕上げ ・什器・看板 ・室内機・吹出口 ・コンセント分岐 費用:テナント/自由施工 基礎・地中埋設配管(A工事)

図8:A工事(オーナー)/B工事(オーナー指示・テナント費用)/C工事(テナント自由施工)の典型範囲

店舗空調はA工事・B工事・C工事の境界が複雑な領域です。物件のタイプによって 「室外機の設置」「室内機の設置」「配管」「電源」 がそれぞれ別の区分になることがあり、契約前の整理が欠かせません。

空調工事の区分パターン

物件タイプ 室外機 室内機 配管 電源
路面店(独立) C工事 C工事 C工事 C工事
商業ビル(パッケージ) B工事 C工事 B〜C工事 B工事
商業ビル(セントラル) A工事 B〜C工事 B工事 B工事
大型商業施設 A工事 B工事 B工事 B工事

路面店(独立物件)の場合

路面店では空調全体がC工事になり、テナントが業者を自由に選べる前提です。 3社相見積もりで価格を最適化 でき、機種選定も自由です。一方、屋上や敷地内の室外機設置で隣家との境界・騒音規制を満たす設計が必要です。

商業ビル(パッケージ式)の場合

商業ビルでテナントごとに個別空調を持つパッケージ式の場合、 室外機の設置と配管の躯体貫通部分はB工事 になります。室内機の設置・配管のテナント内部分はC工事です。室外機置き場は建物オーナーが指定するため、内見時に「室外機をどこに置けるか」「追加配管が必要か」を確認します。

商業ビル(セントラル空調)の場合

セントラル空調の建物では、テナントは 建物全体の冷温水を分配されるファンコイルユニットを使う 形になります。空調機本体(A工事)はオーナー所有、テナント側はファンコイル選定と温度制御のみがC工事範囲です。テナント側の自由度は低い反面、初期費用が抑えられます。

大型商業施設の場合

SC・駅ビル・アウトレットなどの大型商業施設は、 テナント空調の大部分がB工事 で、施設指定業者の見積もりに従う形になります。テナント側ができる選択は「能力区分・温度制御範囲」程度で、機器選定の自由度は低いです。一方、メンテナンスは施設側が一括対応するため、運用は楽になります。詳細は A工事B工事C工事ガイド も参照してください。

工事区分の判定は 物件契約前にPM(プロパティマネージャー)から書面で確認 するのが鉄則です。「どの範囲がB工事か」「指定業者は誰か」「概算見積はいくらか」を物件契約前に把握しないと、契約後に予算が大きくブレます。

工事区分の境界トラブル例と回避策

工事区分A/B/Cの境界は、契約書の「内装工事区分表」で詳細に取り決めます。曖昧なままスタートすると、開業直前に「これはB工事か、それともC工事か」で工程が止まり、追加費用と工期遅延の原因になります。よくある境界トラブルの典型例を3つ挙げます。

境界トラブル①|分電盤の改修区分

店舗側で必要な電気容量が物件の既存設備を超える場合、分電盤の容量アップ工事が必要になります。この工事を「A工事として貸主負担」とするか、「B工事として借主負担+指定業者工事」とするかは契約内容次第です。事前にテナント工事区分表で確認し、覚書を交わしておきます。

境界トラブル②|消防設備の感知器追加

店舗レイアウト変更で天井形状が変わると、火災感知器の位置・個数を変更する必要が生じます。スプリンクラー・自動火災報知設備の改修は、ビル管理会社の指定業者によるB工事になることがほとんどで、見積もりを取れる業者が限定されます。

境界トラブル③|給排水管の取り出し位置

厨房・トイレの給排水位置を変更する場合、躯体側の主管からの分岐工事はA工事範囲(貸主負担)の場合と、B工事(借主負担+指定業者)の場合があります。最初に物件決定前にビル管理会社へ「給排水の改造可否と工事区分」を確認しておきます。

空調設計でよくあるつまずき例と回避策

店舗空調で発生しやすい問題は典型的に 4類型 に集約されます。各類型の構造と回避策を整理します。

類型1:業務用ではなく家庭用を選定して能力不足

「家庭用エアコンのほうが安いから」と業務用ではなく家庭用を10〜15帖用クラスで設置するパターン。連続運転で故障が早い、夏のピーク時に冷房能力が不足する、保証期間が業務使用で短縮されるといった問題が発生します。よくあるのは カフェ・小規模物販・サロン で、初期費用を抑えたい意図がトラブルにつながります。

回避策:店舗用途では 業務用エアコンを必ず選定 します。連続運転10時間以上、客の出入り、機器発熱を考慮すると、家庭用では能力・耐久性とも不足します。初期費用は2倍程度ですが、5〜10年の運用で十分回収できます。

類型2:換気との連動を考慮せず冷暖房効率が低下

空調は導入したものの、 換気量が不足してCO2濃度が上昇する/逆に過剰換気で冷暖房ロス が発生するパターン。建築基準法と労働安全衛生法の基準を満たさず、客やスタッフの体調不良につながることもあります。

回避策:空調設計と換気設計を 同時並行 で進めます。全熱交換器の導入、換気ゾーンの分離、CO2センサー連動制御で、空気質と省エネを両立させます。換気計算は業態と人数密度に応じて設備設計士が個別に行うのが基本です。

類型3:室外機の置き場が確保できず追加配管

物件契約後に「室外機を置く予定だった場所が使えない」と判明し、別の場所に追加配管30〜50mを引かざるを得ないパターン。1m追加で1〜3万円の費用が積み上がり、当初予算を大きく超過します。商業ビル・密集市街地・景観規制エリアで頻発します。

回避策:物件内見時に 「室外機の予定設置場所」 を必ず特定し、PMから書面で許可を取ります。他テナントとの競合、騒音規制、景観条例を事前に確認し、契約後に問題化しない設計を組みます。

類型4:冷媒規制を見落として後で交換義務

フロン排出抑制法の冷媒規制で、 R22・R410Aなどの旧冷媒 を使う中古機を導入したり、新規でも規制対象冷媒を選んでしまうパターン。法改正のタイミングで交換義務が発生し、追加費用と工期延長が発生します。

回避策:新規導入時は R32など低GWP冷媒 の最新機種を選定します。中古機・移設機を使う場合は、冷媒種別と製造年を確認し、規制スケジュールに照らして導入可否を判断します。10年運用前提なら新品の最新機種が長期的に有利です。

つまずき予防チェックリスト

  • 業務用エアコン(パッケージ型・マルチ型)で能力選定したか
  • 業態固有の補正係数を加味した熱負荷計算をしたか
  • 換気量が建築基準法と労働安全衛生法の基準を満たすか
  • 全熱交換器の導入を検討したか
  • 室外機の設置場所と必要スペースを物件契約前に確認したか
  • 騒音規制・景観条例の対象エリアか確認したか
  • 工事区分(A/B/C工事)を書面で確定させたか
  • 冷媒種別がR32など低GWP冷媒か確認したか
  • 3社以上から相見積もりを取ったか(C工事範囲)
  • 機種型番・能力(kW)・APF値・保証期間を比較表化したか

引渡し前にチェックすべき項目リスト

空調工事の引渡し前検査で、店舗オーナーが施主立会いの場で確認すべき項目を整理します。プロの空調技士が試運転する場面で、以下の点を一緒に確認しておくと、開業後のトラブルを大幅に削減できます。

  • 冷房・暖房・ドライ・送風の各モードを30分以上運転し、設定温度に到達するかを確認
  • ドレン水が排水口まで正常に流れているかを目視確認(漏水跡のチェック)
  • 室外機の運転音を測定(深夜想定で隣地境界の騒音値を確認)
  • 室内機からの吹出し方向と風量分布を、温度計で4方位均一かをチェック
  • リモコンの設定モード(個別/グループ)と、複数台連動の動作確認
  • フィルター取り外し方法・清掃方法の説明を実演で受け、社内マニュアル化
  • 施工保証書(工事保証)と機器保証書(メーカー保証)を書面で受領
  • 第一種フロン類取扱業者の登録証の写しを保管(点検記録の起点になる)
  • 緊急時の連絡先(24時間対応窓口・代替機手配の連絡先)を一覧化

追加で押さえておきたい3つの典型パターン

典型パターン⑤|冷暖房切替時の能力不足

業務用エアコンは「冷房能力=暖房能力」ではなく、暖房能力は冷房の80〜90%程度になる機種が多くあります。とくに北海道・東北・北陸の店舗では、夏期の冷房負荷だけで馬力選定すると冬期の暖房能力が足りなくなり、寒い客席という結果になります。寒冷地仕様(暖房強化型)を選ぶか、暖房側の必要能力を起点に馬力決定する考え方が安全です。

典型パターン⑥|引渡し直後の異音・水漏れ

開業直後に「室内機からポタポタと水滴が落ちる」「ガラガラと異音がする」事象が発生することがあります。原因の多くはドレン配管の勾配不良、配管内の結露水、室内機架台の固定不足です。引渡し前の試運転で、冷房・暖房・ドライ各モードを30分以上運転し、ドレン水が排水口まで流れているか、運転音に異常がないかをチェックリスト化して確認します。

典型パターン⑦|故障時の代替機手配が遅い

夏のピーク期(7〜8月)に空調故障が発生すると、業務用エアコンは在庫がほぼ無く、修理パーツの取り寄せに2〜4週間かかることがあります。営業を止めないために、空調会社と「故障時の代替機(スポットクーラー)レンタル即日対応」「修理優先順位の取り決め」を契約条項に含めておくと安心です。

空調設計の進め方と専門会社の選び方

店舗空調設計の標準フロー(7ステップ) 空調設計の標準フロー(7ステップ) 1 物件確認 既存空調・電源 A工事範囲 [T-30〜60日] 2 負荷計算 面積×業態 人体・機器 [T-25日] 3 機種選定 形状・馬力 冷媒種別 [T-20日] 4 換気連動 給排気量 建基法・労安 [T-15日] 5 見積比較 複数社 本体/工事 [T-10日] 6 工事 配管・電源 据付・試運転 [T-3〜0日] 7 検査・引渡 能力測定 取扱説明 [T+0日]

図10:空調設計の標準7ステップとオープン日からの逆算スケジュール(T=オープン日)

店舗空調の設計と施工は、案件規模と業態の特殊性で 3つの依頼パターン から選びます。それぞれの特徴と判断軸を整理します。

3つの依頼パターン

📦 内装会社の設備部門

向く規模20〜40坪
業態標準業態
強み内装全体との一体設計
注意特殊業態の経験量に差

🔧 空調専門会社

向く規模40坪以上
業態飲食・医療・大型物販
強み馬力計算・換気連動の専門性
注意意匠との調整は別途

📐 設備設計士+施工分離

向く規模50坪以上・特殊用途
業態医療・大型施設・特殊環境
強み専門設計+施工選定の自由度
注意調整負荷が発注者側に

内装会社の設備部門(一般的な選択)

20〜40坪の標準業態であれば、 内装会社の設備部門 が空調設計と施工を一括で担当するのが最も効率的です。内装意匠と空調機器の配置を同時に検討でき、コスト管理もシンプルです。マッチングプラットフォーム経由で複数社の提案を受けられます。会社タイプ別の選び方は 内装会社比較ガイド を参照してください。

空調専門会社(中〜大規模・特殊業態)

40坪以上の飲食店・医療系・大型物販では、 空調専門会社 に設計から施工まで依頼するのが業界標準です。馬力計算・換気連動・冷媒規制対応などの専門知識が必要で、内装会社の設備部門より深い対応が期待できます。意匠設計とは別途調整が必要なため、内装会社と空調会社の連携体制を確認します。

設備設計士+施工分離(大規模・特殊用途)

50坪以上の大型店舗、医療系の特殊環境、ホテル・スポーツ施設などでは、 独立した設備設計士が空調設計を行い、施工は別の空調会社 に発注する分離発注が適します。設計の独立性が高まり、施工会社を競争入札で選べる利点があります。一方、発注者側で複数社の調整負荷が発生します。

空調設計者選定のチェックポイント

  • 同業態の施工実績:同じ業態の過去事例数(できれば3件以上)
  • 馬力計算の根拠:熱負荷計算のロジックを説明できるか
  • 換気との連動:空調と換気を統合設計できるか
  • 冷媒規制への対応:低GWP冷媒の機種選定経験
  • メンテナンス体制:引渡し後のフォロー範囲と保証期間
  • 近隣対策の実績:騒音・景観への配慮実績
  • 建築設備士・電気工事士の資格:法令適合の責任者

空調設計の進め方(標準フロー)

1物件確認物件契約前
2熱負荷計算業態×規模
3機器選定3社相見積
4施工・試運転能力確認
空調設計者の選定は 「価格だけで決めない」 のが鉄則です。価格優先で選ぶと、馬力選定の根拠が曖昧、換気連動が考慮されない、機種選定が古いといった問題が発生します。3社の提案を「能力計算の根拠・換気との連動・機種選定の妥当性」で比較するのが、結果的に長期コストを最小化する選び方です。

空調会社・内装会社の見積もり比較ポイント

3〜5社から相見積もりを取る際の比較項目を、優先順位順に整理します。「合計金額の安さ」だけで選ぶと、後工程で能力不足や追加工事が発生し、結局トータルコストが高くつくケースが頻発します。

比較項目 確認内容 優先度
馬力選定の根拠 熱負荷計算書または面積×係数の算出根拠を文書で要求 ★★★
機器メーカー・型番 ダイキン/三菱/日立/パナソニックの各社型番と省エネ等級 ★★★
配管延長・架台 配管延長m数の実測根拠、防振架台・防音処理の有無 ★★
既存撤去・処分費 フロン回収券(産廃マニフェスト相当)の発行有無 ★★
アフター保証 機器保証年数(標準1〜3年)と工事保証(標準1年)の内容 ★★
引渡し後の対応 故障時の駆けつけ時間、代替機レンタルの可否 ★★

空調設計を内装会社に一括発注する場合の論点

店舗内装の一括発注(ターンキー方式)を選ぶ場合、空調設計と工事は内装会社の協力会社(空調専門業者)が担当します。一括発注のメリットは窓口が一本化され、工程調整がスムーズな点です。一方、見積書では空調工事費が「設備工事一式」としてまとめられがちで、内訳が見えにくくなる傾向があります。空調分の内訳を別書きで要求し、機器型番・能力・配管経路の前提条件まで開示してもらうと、後の追加費用トラブルを避けられます。

省エネ・脱炭素対応|冷媒規制と省エネ法

主要冷媒のGWP比較 主要冷媒のGWP(地球温暖化係数)比較 CO₂を1とした温室効果倍率(数値が小さいほど環境負荷が低い) 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 R22 1,810(生産禁止) R410A 2,090(規制対象) R32 675(現行主流) R454C 466(次世代) R290(プロパン) 3(自然冷媒)

図9:主要冷媒のGWP(フロン排出抑制法・キガリ改正で段階的移行が進む)

業務用空調は法令上の 省エネ・脱炭素対応 が年々強化されており、機種選定段階で規制動向を理解しておくことが重要です。

冷媒規制(フロン排出抑制法)

業務用空調の冷媒は、 地球温暖化係数(GWP) が低い種類への移行が進んでいます。法令で点検・記録・廃棄時の冷媒回収が義務化され、違反には罰則があります。

冷媒 GWP 取扱い
R22(HCFC) 1,810 新規製造禁止、修理用のみ流通
R410A(HFC) 2,090 段階的に新製品から削減
R32(HFC) 675 業務用の主流冷媒
R454C(HFO混合) 148 次世代低GWP冷媒

定期点検の義務

業務用空調を保有する事業者は、フロン排出抑制法に基づき 定期点検 が義務化されています。

  • 3ヶ月ごと簡易点検:すべての業務用空調が対象
  • 1年ごと専門点検:圧縮機定格出力7.5kW以上(業務用4馬力以上相当)
  • 3年ごと専門点検:圧縮機定格出力7.5kW未満
  • 記録保管:点検記録・修理記録は冷媒廃棄まで保管

省エネ法(建築物エネルギー消費性能基準)

2025年4月以降、 原則すべての新築建築物に省エネ基準適合が義務化 されました。空調機器の選定でも APF値(年間効率) の高い機種を選ぶことで、建築全体の省エネ性能向上に貢献できます。テナント工事でも、改修規模によっては届出義務が発生することがあります。

省エネ機種を選ぶメリット

  • 電気代の削減:APF値が高い機種は年間電気代を15〜30%削減
  • 補助金活用:高効率空調設備への補助金制度が国・自治体レベルで設定
  • 法令適合:将来の規制強化に対しても対応可能
  • 環境配慮の訴求:客への環境配慮アピール(特に若年層・SDGs意識層)
冷媒規制と省エネ法は今後も強化される方向です。 10年運用前提の店舗 なら、新品の最新機種を選定するほうが、途中での交換義務リスクを避けられます。中古機の流用は短期営業(3〜5年)の特殊ケースに限定するのが現実的です。

冷媒の世代交代と移行スケジュール

業務用エアコンの冷媒は、過去20年で大きく入れ替わってきました。現在主流のR32(GWP 675)から、より低GWPの新冷媒R454C(GWP 148)・R32改良型(プロパン系)への移行が進行中です。2020年代後半から大型機種で順次切替が進み、2030年代には微低GWP冷媒(GWP 150以下)が標準化される見込みです。

冷媒 GWP 主な使用時期 業務用での扱い
R22 1810 〜2010年頃 新規製造禁止/撤去対象
R410A 2090 2010〜2020年頃 既設多数/更新時に切替
R32 675 2020年〜現在 主流/新規導入の標準
R454C等 148 2025年〜順次 移行中/一部機種で採用

空調メンテナンスと運用コスト

業務用空調は導入後の メンテナンス・運用コスト が長期コストの大半を占めます。初期費用だけでなく、年間ランニングコスト・修理費・廃棄費用まで含めたトータルコストで判断するのが正解です。

年間メンテナンスコスト

2〜5万円
フィルター清掃(年2-4回)
5〜15万円
点検・診断(年1回)
10〜30万円
修理・部品交換(年平均)
50〜200万円
10年目大修繕 or 更新

定期メンテナンスの内容

  • フィルター清掃:3〜6ヶ月ごとに清掃。汚れたフィルターは冷暖房効率を10〜15%下げる
  • 熱交換器洗浄:年1回、油汚れ・ホコリ・カビの除去
  • ドレンパン清掃:水漏れ予防のため年1〜2回
  • 冷媒漏れ点検:法定義務、年1〜3回
  • 電気系統点検:基板・端子の劣化確認、年1回

業態別の運用コスト目安(30坪・年間)

業態 年間電気代 年間メンテ費 年間総運用コスト
物販・オフィス(営業10h) 30〜60万円 15〜30万円 45〜90万円
カフェ・喫茶(営業12h) 50〜90万円 20〜40万円 70〜130万円
飲食店(営業14h) 80〜150万円 25〜50万円 105〜200万円
焼肉・鉄板焼き(営業14h) 120〜220万円 35〜70万円 155〜290万円
サロン(営業10h) 40〜70万円 15〜35万円 55〜105万円

長期コスト最小化の3原則

  1. 初期費用とランニングコストのバランス:高効率機の導入で5年以内に投資回収できることが多い
  2. 適正馬力の選定:過剰馬力は初期費用・電気代の両方を押し上げる
  3. 定期メンテナンスの徹底:突発故障による修理費はメンテ費の3〜5倍になることが多い

運用コスト(電気代)の年間試算

業務用エアコンの電気代は、店舗の業態・運用時間で大きく変動します。20坪・5HPの飲食店(営業時間10時間/日・年間営業300日)を想定した年間電気代の試算は、夏期(6〜9月)冷房16〜22万円、冬期(12〜2月)暖房10〜15万円、中間期(3〜5月/10〜11月)4〜8万円で、合計年間30〜45万円のレンジです。省エネ等級APF6.0以上の高効率機種を選ぶと、APF4.5機種比で年間20〜30%の電気代削減が可能で、本体価格差(10〜25万円)は3〜5年で回収できる計算になります。

故障発生時の判断フロー

空調が突然動かなくなった場合、店舗オーナーが取るべき判断手順です。まず①リモコンのエラーコード表示を確認、②室外機の電源とブレーカーを確認、③エラーコードを契約している空調会社へ連絡、の3ステップが基本です。エラーコードによっては施主側で復旧できる軽微な事象(フィルター詰まり・電源リセット・タイマー誤設定など)と、技術者対応が要る重故障(圧縮機・基板・冷媒漏れ)が判別できます。夏ピーク時の重故障は復旧まで2〜4週間かかるケースもあるため、契約段階で代替機(スポットクーラー)の即日レンタル条項を入れておくと、営業継続のリスクヘッジになります。

メンテナンス頻度と費用の目安

業務用エアコンは、家庭用と異なり「使い続ければ性能が落ちる」消耗品です。フィルター清掃を怠ると消費電力が10〜30%増加し、ドレン配管の詰まりは水漏れ事故の主原因になります。メンテナンス頻度の業界目安を示します。

メンテナンス内容 頻度の目安 費用(5HP・1台) 担当
フィルター清掃 月1〜2回 店舗で実施(自社) 店舗スタッフ
熱交換器・ドレン洗浄 年1回 2〜4万円/台 空調会社
分解洗浄(飲食) 年1〜2回 3〜6万円/台 専門業者
フロン定期点検 7.5kW以上は3年に1回(簡易)/法定 3〜6万円/回 第一種フロン類取扱業者
業務用エアコンの法定耐用年数は税法上15年(2024年改正以前)ですが、実使用上の経済耐用年数は10〜13年が目安です。10年経過した時点で更新計画を立てておくと、突発故障による営業停止リスクを下げられます。

まとめ|空調設計早見表とよくある質問

店舗空調設計の意思決定をサポートする早見表とFAQでまとめます。

業態別 空調設計の優先論点早見表

業態 優先論点1 優先論点2 優先論点3
飲食店 厨房-客席の温度ゾーン分離 排気と給気のバランス 扉開閉対策
物販・アパレル 大開口部の日射対策 湿度管理 試着室の独立制御
サロン・美容 薬品換気の強化 ドライヤー発熱 シャンプー台の温度
クリニック 感染対策(陽圧・陰圧) ゾーン別独立制御 医療機器の発熱
オフィス PC機器発熱 人感センサー連動 CO2濃度管理
フィットネス 運動量による発熱 換気量の強化 湿度管理

よくある質問

Q1:店舗用に家庭用エアコンを使ってもよいですか?

店舗用途では推奨しません。家庭用エアコンは1日5〜10時間の運転を想定した設計で、店舗の連続営業(10〜18時間)に耐える耐久性がありません。連続運転で1〜3年で故障する例が多く、長期的には業務用のほうが総コストで有利です。客の快適性・スタッフの作業環境・電気契約容量の観点でも、業務用が必要です。

Q2:空調の馬力はどう決めますか?

面積・熱負荷・扉開閉頻度・客席数・業態固有の発熱量から計算します。坪あたり0.4〜0.8馬力が業界目安ですが、業態によって1.5〜2倍違います。30坪の物販なら12〜15馬力、焼肉店なら24〜36馬力が標準レンジです。最終的な計算は専門業者に依頼するのが基本で、3社からの提案を比較すると相場感が見えます。

Q3:30坪の店舗で空調費用はいくらかかりますか?

業態と仕様により150〜700万円のレンジです。物販・オフィスは150〜300万円、カフェ・サロンは200〜400万円、レストランは250〜500万円、焼肉店は350〜700万円が目安です。これとは別に換気設備(全熱交換器)で30〜80万円、室外機の追加配管・防音対策で20〜100万円が加算されることもあります。

Q4:室外機の置き場所はどう決めますか?

物件契約前にPMと書面で確認します。物件タイプごとに「テナント占有エリア・共用部・建物オーナー指定エリア」が決まっており、A工事/B工事/C工事の区分も変わります。室外機1台あたり0.3〜0.5㎡のスペース、放熱距離(前後1.5〜2m)、騒音規制への対応が必要です。商業地域や住宅街隣接の物件では景観条例・騒音条例の確認が欠かせません。

Q5:空調と換気はどう連動させますか?

空調と換気は同時並行で設計するのが基本です。建築基準法(換気量0.7〜1.0回/h以上)と労働安全衛生法(業態別の換気量)の基準を満たし、全熱交換器で外気導入によるロスを最小化します。CO2センサー連動制御を組み込むと、客密度の変化に応じた最適換気が可能です。換気量を増やすほど空気質は良くなりますが、過剰換気は冷暖房ロスにつながります。

Q6:空調の冷媒はどれを選ぶべきですか?

新規導入はR32(GWP 675)が業務用の主流です。R22(製造禁止済)・R410A(段階削減中)の旧冷媒は避け、低GWP冷媒(R454Cなど次世代冷媒)も将来選択肢になります。フロン排出抑制法で定期点検と冷媒回収が義務化されており、違反には罰則があります。10年運用前提なら最新の低GWP機を選定するのが安全です。

Q7:高効率空調を選ぶメリットはありますか?

APF値(年間効率)が高い高効率機は、初期費用が10〜20%増ですが、年間電気代を15〜30%削減できます。30坪の飲食店で年間電気代100万円なら、年間20〜30万円の削減効果で、5年以内に初期投資の差額を回収できる計算になります。長期運用するほど経済性が高まり、補助金が使えるケースもあります。

Q8:空調設計を誰に依頼すればよいですか?

20〜40坪の標準業態なら内装会社の設備部門が一括対応できます。40坪以上の飲食店・医療系・大型物販は空調専門会社に依頼するのが業界標準です。50坪以上の特殊用途や複雑な要件がある案件は、独立した設備設計士に設計を依頼し、施工は別の空調会社に発注する分離発注が向きます。同業態の施工実績が3件以上ある会社を選ぶのが基本です。

Q9:空調のメンテナンスはどれくらい必要ですか?

3〜6ヶ月ごとのフィルター清掃、年1回の専門点検(業務用4馬力以上は法定義務)、年1回の熱交換器洗浄が標準です。年間メンテ費用は30坪規模で15〜70万円が目安です。定期メンテを怠ると突発故障の修理費がメンテ費の3〜5倍になることが多く、長期コストでは定期メンテのほうが大幅に有利です。

Q10:商業ビルでセントラル空調の場合、テナント側で何を選べますか?

セントラル空調の建物では、テナント側ができるのは温度制御範囲・ファンコイルユニットの選定・吹出口配置の調整程度で、空調機器本体の選定権はありません。一方、初期費用がテナント負担に乗りにくく、メンテナンスも建物オーナーが対応するため運用は楽になります。テナント工事の自由度を重視するなら、パッケージ型エアコンの個別空調がある物件を選ぶのが現実的です。

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