「飲食店は3年で7割が潰れる」——開業を考えると必ず目にする数字です。ところが、この数字の一次出典を明記した記事はほとんどありません。そして公的統計にあたると、まったく違う数字が出てきます。
中小企業白書に記載された起業後の生存率は、3年後88.1%。つまり廃業は約12%です。通説とは約6倍の開きがあります。この記事では、両方の数字の出所と集計方法をたどり、なぜここまで食い違うのか、そして出店を考える人が実際に何を見ればいいのかを整理します。
この記事の方針
掲載する数値はすべて、調査名・年度・公表時期・集計対象を明記した公表統計から引用しています。当サイトの独自集計や推計は行っていません。統計にはそれぞれ「何を数えたか」の制約があるため、その制約もあわせて記載します。
この記事の要点
- 通説の「1年で3割・3年で5〜7割」は、一次出典が確認できない数字として流通している
- 公的統計(中小企業白書)の起業後生存率は1年95.3%・3年88.1%・5年81.7%(全業種・法人ベース)
- ただし白書自身が「実際の生存率より高めに算出されている可能性がある」と注記している
- 倒産と廃業は別物。2025年の飲食店倒産900件は「負債1,000万円以上・法的整理」のみの数字
- 飲食サービス業の年間廃業率5.6%は全業種で最も高い(開業率17.0%も最高=入れ替わりが激しい業界)
「3年で7割」はどこから来たのか
飲食店の廃業率としてよく引用されるのは、次のような数字です。
- 開業1年以内に約30%が廃業
- 3年以内に50〜70%が廃業
- 10年以内に約90%が廃業
これらを掲載している記事を確認すると、ほぼすべてが「一般に言われています」「とされています」という書き方で、調査名・調査年・対象数といった一次情報が示されていません。同種の数字については、公的な調査記録も残っています。国立国会図書館のレファレンス協同データベースには、「ベンチャー企業の生存率は5年で15%、10年で6.3%」という広く流布した数値について司書が出所を調査し、根拠となるデータは見当たらないと結論した記録が公開されています。
数字を否定したいわけではない
現場の実感として「飲食店の入れ替わりは激しい」というのは事実です。後述する公的統計でも、飲食サービス業の廃業率は全業種で最も高くなっています。問題は、実感を裏づけるはずの数字が検証できない形で流通していることです。出店の判断材料にするなら、数字の出所と数え方を知っておく必要があります。
公的統計の実数——白書の生存率
中小企業白書2017年版に掲載された「起業後の企業生存率の国際比較」では、日本の数値は次のとおりです。
| 経過年数 | 生存率 | 廃業した割合 |
|---|---|---|
| 1年後 | 95.3% | 4.7% |
| 2年後 | 91.5% | 8.5% |
| 3年後 | 88.1% | 11.9% |
| 4年後 | 84.8% | 15.2% |
| 5年後 | 81.7% | 18.3% |
出典:中小企業庁「中小企業白書」2017年版(第2部 中小企業のライフサイクル)掲載の「起業後の企業生存率の国際比較」より、当編集部が日本の数値を抜粋して整理。全業種・法人ベース。
さらに長期の数値は、中小企業白書2016年版に記載があります。10年後72%、20年後55%、30年後43%。国際比較では、日本の5年後生存率81.7%に対して、米国48.9%、フランス44.5%、英国42.3%、ドイツ40.2%と、日本は突出して高い水準です。
白書自身が「高めに出ている可能性」を認めている
見落とされがちですが、中小企業白書2023年版の脚注には、創業後5年の生存率80.7%という数値について、「データベースに収録される企業の特徴やデータベース収録までに一定の時間を要する等から、実際の生存率よりも高めに算出されている可能性がある」と明記されています。この生存率は民間信用調査会社のデータベースを基礎にしているため、そこに登録されるような法人が母集団になります。個人経営の小さな飲食店は、そもそも捕捉されにくい構造です。
なぜ食い違うのか——4つの罠
「3年で7割」に、調査名・年度・対象を伴う出典が確認できません。引用の連鎖で数字だけが独り歩きしている状態です。
白書の生存率は法人・信用調査データベースが基礎。個人事業の小規模飲食店は入りにくく、白書自身が高めに出る可能性を注記しています。
倒産統計は法的整理された事業者のみ。赤字が続いて静かに店を閉める、契約更新をせず退去するといったケースは倒産件数に一切入りません。
飲食サービス業の廃業率5.6%は1年間に消滅した事業所の割合で、「開業してからn年で何%が廃業したか」とは別の指標です。この2つを並べて論じている記事が少なくありません。
倒産データで見る現在地(2025年)
実際に法的整理に至った件数は、信用調査会社が毎年公表しています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 2025年の飲食店倒産件数 | 900件(過去最多・3年連続増加) |
| 2024年 | 894件 |
| 2025年上半期 | 458件(上半期として過去最多) |
| 業態別・最多(2025年上半期) | 酒場・ビヤホール105件 |
| 中華・東洋料理店 | 88件(過去最多) |
| 日本料理店 | 46件(前年同期比+53.3%) |
出典:帝国データバンク「『飲食店』の倒産動向(2025年)」2026年1月13日公表、および「同(2025年上半期)」2025年7月8日公表。集計対象は負債1,000万円以上・法的整理による倒産。
900件は「氷山の一角」である理由
この900件には、負債1,000万円未満の事業者も、法的整理を経ずに閉店した事業者も含まれていません。日本の飲食店は数十万規模で存在するため、倒産件数だけを見て廃業の全体像は測れません。逆にいえば、倒産が過去最多を更新し続けているという事実は、法的整理に至るほど追い込まれる事業者が増えているという意味で、重い数字です。
統計を読むときの3つのチェックポイント
この記事で数字を分解してきた手順は、他の統計にもそのまま使えます。開業準備で数字に出会ったとき、次の3点を確認してください。
| 確認点 | 何を見るか | 本記事での例 |
|---|---|---|
| ①母集団 | 誰を数えたのか。法人だけか、個人事業も含むか | 白書の生存率は信用調査データベース収録の法人が基礎。個人経営の小規模店は入りにくい |
| ②定義 | その言葉が何を指すか。似た言葉と混ざっていないか | 倒産=法的整理(負債1,000万円以上)。廃業=事業をやめること全般。両者は別物 |
| ③期間の取り方 | 1年間の割合か、開業からの累積か | 廃業率5.6%は年間の事業所ベース。「3年で◯%」という累積とは別指標 |
出典が書かれていない数字は、判断材料にしない
調査名・年度・集計対象のいずれかが欠けている数字は、検証できません。事業計画の前提に置く数字であれば、その3点が確認できるものだけを使う——これだけで、脅し文句や誇張に振り回される場面は大きく減ります。
では実態はどのあたりにあるのか
ここまでを踏まえると、正直に言えるのは次のことです。
- 通説の「3年で7割」を裏づける公表データは確認できない
- 白書の「3年で88.1%生存」も、小規模な個人店の実態より高めに出ている可能性が高い
- したがって実態は両者の間にあるが、飲食店単体の累積廃業率を正確に示した公的統計は見当たらない
ただし、業種間の比較なら公的統計で明確に言えます。小規模企業白書2022年版によれば、宿泊業・飲食サービス業の廃業率は5.6%で全業種中最も高く、開業率も17.0%で最も高い水準です(雇用保険適用事業所ベース)。参考までに、同時期の全業種平均は開業率5.1%・廃業率3.3%です。
つまり「入れ替わりが最も激しい業界である」ことは統計的に確かで、「3年で7割が消える」は確認できない——これが、現時点で誠実に言える結論です。
開業率17.0%が意味していること
廃業率5.6%と並んで見落とせないのが、開業率17.0%も全業種で最も高いという事実です。この2つはセットで読む必要があります。参入が容易で、毎年多くの店が生まれ、同時に多くの店が消えていく——これが飲食サービス業の構造です。
出店者にとっての意味は明確です。あなたが開業する年にも、同じ商圏で新しい店が次々に生まれます。立地選定や業態設計は「今ある競合」ではなく「これから増える競合」を前提に考える必要があり、この点は立地戦略のガイドで詳しく扱っています。
隣接業種の動きも参考になる
飲食店だけでなく、テイクアウトや総菜を扱う小売の領域でも同様の傾向が出ています。飲食料品小売の倒産は2025年度358件で4年連続の増加、うち弁当製造や総菜テイクアウトを主体とする「料理品小売」が104件と通年で初めて100件を超えました。規模別では負債5,000万円未満の小規模倒産が62.8%を占めています。テイクアウト併設を検討している場合、この領域の環境も見ておく価値があります。
出典:帝国データバンク「『飲食料品小売』の倒産動向(2025年度)」2026年5月公表。集計対象は負債1,000万円以上・法的整理。
何が廃業を招いているのか
件数より重要なのは、何が事業者を追い込んでいるかです。倒産動向の分析では、食材費・人件費・光熱費といった運営コストの高騰が主因として挙げられています。
価格転嫁が進まない
32.3%
- 飲食店業界の価格転嫁率
- 全業種平均39.4%を下回る
- コスト増を売価に乗せきれない
倒産件数の推移
3年連続増
- 2023年から増加が続く
- 2025年は900件で過去最多
- 小規模事業者が中心
物価高起因の倒産
約1割
- 2025年上半期の倒産のうち
- 50件が物価高に起因
- 夫婦経営など小規模が目立つ
出典:帝国データバンク「価格転嫁に関する実態調査(2025年7月)」および「『飲食店』の倒産動向」各号。
内装費や設備費に初期資金を使い切り、運転資金を確保できないまま開業してしまうケースが多い、という指摘も繰り返し挙がっています。開業費用と資材価格の動向は資材高騰・工事費値上がりのガイドと開業総額のガイドで整理しています。
出店を考える人にとっての意味
統計をどう読んでも、出店を検討している人がやるべきことは変わりません。むしろ、数字の検証を通じて見えてくるのは次の3点です。
数字から導ける実務的な結論
- 脅し文句に判断を預けない——「3年で7割」を根拠に諦めるのも、「白書では88%生存」を根拠に楽観するのも、どちらも数字の性質を無視しています
- 入れ替わりが激しい業界であることは事実——開業率も廃業率も全業種最高。参入しやすい=競争が絶えない構造です
- 追い込まれる主因はコストと資金繰り——初期投資を抑え、運転資金を残すことが、統計から読み取れる最も具体的な対策です
初期投資の設計は店舗内装の費用相場、資金計画は資金調達のガイド、立地の選び方は立地戦略のガイド、失敗パターンの回避は失敗回避のガイドにまとめています。
初期投資を抑えることは、開業後の資金繰りを守ることに直結します。複数社の見積もりを比べるところから始められます。
よくある質問
飲食店の廃業率は結局どれくらいですか?
飲食店だけを対象にした「開業後n年の累積廃業率」を示した公的統計は見当たりません。確実に言えるのは、宿泊業・飲食サービス業の年間廃業率が5.6%で全業種中最も高いこと(小規模企業白書2022年版)と、全業種・法人ベースの起業後生存率が3年後88.1%であること(中小企業白書2017年版)です。飲食店単体の実態は、この統計値より厳しい可能性があります。
「3年で7割が廃業」は嘘なのですか?
嘘と断定はできませんが、一次出典が確認できない数字です。調査名・年度・対象数を伴う形で示された例が見当たらず、引用の連鎖で流通している状態です。判断材料にする際は、出所が確認できるかを見てください。
倒産件数と廃業件数はどう違いますか?
倒産は法的整理などの手続きを経たものを指し、公表される統計は負債1,000万円以上に限られることが一般的です。廃業は事業をやめること全般を指し、静かに閉店するケースも含まれます。倒産件数は廃業の一部にすぎません。
日本の生存率が欧米より高いのはなぜですか?
中小企業白書の国際比較では、日本の5年後生存率81.7%に対し米国48.9%、英国42.3%などとなっています。ただし日本は開業率自体が低く、統計の取り方も国ごとに異なるため、単純比較には注意が必要です。開業のハードルが高いぶん、参入する事業者の準備が相対的に整っているという見方もあります。
どの業態が特に厳しいのですか?
2025年上半期の倒産件数では、酒場・ビヤホールが105件で最多、中華・東洋料理店88件、日本料理店46件と続きます。日本料理店は前年同期比53.3%増と伸びが大きく、団体客の減少や接待需要の縮小が背景として挙げられています。
開業したら何年で軌道に乗せる想定が必要ですか?
統計から一律の答えは出せません。ただし倒産の主因が運営コストと資金繰りであることを踏まえると、売上が計画に届かない期間を何ヶ月耐えられるかを先に決めておくのが実務的です。初期投資を抑えるほど、この耐久期間は長くなります。
この記事の数字はどこで確認できますか?
末尾の出典一覧に、調査名・年度・公表時期・集計対象を記載しています。いずれも公表資料で確認できるものです。当サイトの独自集計や推計は含んでいません。
出典一覧
- 中小企業庁「中小企業白書」2017年版——起業後の企業生存率の国際比較(全業種・法人ベース)
- 中小企業庁「中小企業白書」2016年版——10年後・20年後・30年後の生存率
- 中小企業庁「中小企業白書」2023年版——創業後5年の生存率と、算出上の留意点に関する注記
- 中小企業庁「小規模企業白書」2022年版——業種別の開業率・廃業率(雇用保険適用事業所ベース)
- 帝国データバンク「『飲食店』の倒産動向(2025年)」2026年1月13日公表——負債1,000万円以上・法的整理
- 帝国データバンク「『飲食店』の倒産動向(2025年上半期)」2025年7月8日公表
- 帝国データバンク「価格転嫁に関する実態調査(2025年7月)」
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース——生存率の流布数値に関する出所調査の記録
数値の取り扱いについて
本記事は2026年7月時点で公表されている統計を整理したものです。統計は集計対象・母集団・年度によって数値が変わります。引用される場合は、本記事ではなく上記の一次資料をご確認ください。当サイトによる独自集計・推計は行っていません。
運営:店舗内装ドットコム(運営会社情報)|最終更新日:2026年7月26日
