ホテルの内装を無料で一括見積もり
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ホテル・旅館の内装工事費用は、ネットで調べるほど分からなくなります。「坪50万円」と書く記事もあれば「坪350万円」と書く記事もあり、幅が7倍もあるからです。実はこれは、記事によって「建設費」「内装費」「1室単価」という3つの違う物差しが混ざっているのが原因で、どれも間違いではありません。
この記事では、まず施設タイプ別の目安を一覧で即答し、そのうえで宿泊業界の実務で使われる「1室単価×室数」の考え方、築年数と水回りが総額を左右する仕組み、見積書に載らない休業損失の計算まで、費用の全体像を1本で通して解説します。読み終えたとき、手元の見積もりが高いのか妥当なのかを自分で判断できる状態になることが、この記事のゴールです。
30秒で結論
- 内装工事の坪単価目安:ビジネスホテル坪50〜150万円・シティ/リゾート坪150〜250万円・旅館坪150〜250万円・ラグジュアリー坪250〜350万円・民泊/簡易宿所坪20〜60万円
- 実務は「坪」より1室単価×室数:客室改装はビジネス1室120〜200万円、シティ・リゾート1室250〜500万円、水回り更新を含むと+100〜300万円/室
- 総額を左右する2大要因は水回り(防水寿命15〜20年)と休業損失(20室級で月約500万円)。工事費だけ比べると判断を誤る
- 相見積もりで費用配分を見比べるのが最短。下のシミュレーターで自分の条件の概算と「本当の総コスト」が出ます
【早見表】ホテル・旅館の内装費用の目安一覧
最初に結論の数字です。以下は内装工事費(解体・造作・仕上・設備更新。躯体や外装は含まない)の一般的な目安で、物件の状態やグレードで上下します。カードの下段には、改装で使われる「1室単価」の目安も併記しました。
ビジネスホテル
- 客室改装1室120〜200万円
- 水回り込み1室250〜400万円
シティ・リゾート
- 客室改装1室250〜500万円
- 水回り込み1室400〜700万円
旅館
- 和室改装1室200〜400万円
- 露天付き客室化1室800万円〜
ラグジュアリー
- 客室1室700万円〜
- 特徴特注・制御系で上振れ
民泊・簡易宿所
- 居室転用1室50〜150万円
- 特徴既存住宅の活用が中心
カプセル・ホステル
- 特徴ユニット・ベッド什器が主役
- 変動要因導入ユニットの仕様
ヴィラ・貸別荘
- 1棟新装(2LDK規模)1,500〜3,000万円
- 特徴1棟完結の水回り・家具で上振れ
この表の読み方
「新築の建設費」を調べている場合は、上の数字ではなく総工費ベースの坪単価(おおむね坪100〜350万円級、構造とグレードで変動)を見る必要があります。物差しの違いは次章で整理します。金額はいずれも一般的な目安であり、正確な金額は現地調査を経た見積もりでのみ確定します。
目安をつかんだら、実際の金額は複数社の見積もりで確かめるのが確実です。
30秒・無料:内装費用+休業損失シミュレーター
「自分の施設ならいくらか」を最初につかみましょう。施設タイプ・工事範囲・客室数・水回り更新の有無・大浴場・都道府県、そして改装の場合は営業方式を選ぶと、工事費の概算に加えて、見積書には載らない休業損失の目安と推奨予備費まで合算した「本当の総コスト」が出ます。
ポイントは、工事費が安いプランが総コストでも安いとは限らないことです。全館休業で一気に工事すれば工事費は下がりますが、その間の売上はゼロになります。逆にフロアを分割して営業しながら工事すると、工事費は1〜2割上がる代わりに売上が残ります。この損得はあとの章で計算式ごと解説します。
※金額は一般的な目安レンジに基づく概算です。物件の状態(防水・配管・設備の劣化度)、仕様グレード、搬入条件などで実際の金額は変動します。正確な金額は現地調査後の見積もりでご確認ください。
相場に3倍以上の幅がある理由──「建設費・内装費・1室単価」3つの物差し
ホテルの費用相場を検索すると、坪50万円から坪350万円まで大きく食い違う数字が並びます。原因は単純で、世の中の記事には「建てる」費用(新築の総建設費)を語るものと「中身を作る」費用(内装工事費)の記事が同居しており、さらに宿泊業界の実務では「1室いくら」という第3の物差しが使われるからです。同じ「坪150万円」でも、指している中身がまったく違います。
物差し①:建設費(新築の総工費)
土地の上にゼロから建てる場合の数字で、躯体・外装・設備・内装まで全部を含みます。構造(木造・鉄骨・鉄筋コンクリート)とグレードで大きく変わり、一般に坪100〜350万円級と言われます。このうち内装にあたる仕上工事は総工費の30〜50%程度を占めるとされ、客室数が多くグレードが高いほど比率が上がります。新築を検討している方は、この物差しの記事と当記事の内装費を混ぜないよう注意してください。
物差し②:内装工事費(この記事の主役)
既存の建物(自社ビル・テナント・購入した旅館など)の中身を作り変える費用です。解体、間仕切り、造作、床壁天井の仕上げ、設備の更新までを含み、冒頭の早見表の坪単価はこの物差しです。改装・リニューアル・コンバージョンの見積もりは、基本的にこの物差しで出てきます。
物差し③:1室単価(業界の実務の共通言語)
宿泊施設の運営会社や工事会社が実際の会話で使うのは「1室あたりいくらで、何室やるか」です。ホテル・旅館は同じ仕様の客室が反復する構造なので、坪で測るより室で数えたほうが精度が高いからです。客室改装の見積書も多くは「客室工事 ◯室 × 単価」の形で組まれます。
見積書・記事の物差し判定法
「躯体・基礎・杭・外装」の項目があれば①建設費、「解体・造作・設備・仕上」中心なら②内装費、「客室◯室×単価」の組み立てなら③1室単価です。ネットの坪単価と手元の見積もりを比べて高い・安いを判断する前に、まず物差しをそろえてください。物差し違いの比較は、正しい見積もりを「高い」と誤解する典型原因です。
施設タイプ別に見る「何にお金がかかるか」
坪単価の数字だけ並べても、なぜその差になるのかが分からないと応用が利きません。タイプごとに費用の重心が違うので、自分の計画がどの型に近いかで読み替えてください。
ビジネスホテル:水回りの密度が費用の正体
客室15〜20㎡にUB・ベッド・デスクを詰め込む、水回り密度が最も高い業態です。坪単価50〜150万円と幅があるのは、UBを触るかどうかがそのまま金額に出るため。共用部が小さいぶん、費用のほぼすべてが客室に集中し、「1室単価×室数」が最も素直に効きます。省人化設備(自動チェックイン機・スマートロック)を入れる場合は内装とは別枠で予算化します。
シティ・リゾート:共用部と付帯施設が積み上がる
レストラン・宴会場・ラウンジ・スパなど、客室以外の床が大きいのがこの型です。共用部は面積単価が客室より高く、一点物の設計になるため、同じ室数でもビジネスホテルの1.5倍以上の総額になるのが普通です。リゾートはさらに、景観を活かす開口・テラス・外構との取り合いが費用に乗ります。
旅館:素材と温泉の二本柱(詳細は旅館の章へ)
和の素材(畳・建具・左官)と温泉設備が費用の柱で、次章以降で独立して扱います。共用部比率が高く、大浴場・露天の有無で総額が段違いになります。
ラグジュアリー:特注と制御系で単価が跳ねる
坪250〜350万円という数字の中身は、特注家具・造作、細部まで作り込む照明計画、客室環境の制御システム、セキュリティです。量産の論理が効きにくく、設計監理の比重も大きいため、設計料を含めた総予算で考える必要があります。
民泊・簡易宿所:住宅ストック活用で最小投資
既存住宅の居室を転用するため坪20〜60万円・1室50〜150万円程度と最小の初期投資で始められます。費用の中心は、消防設備(自動火災報知・誘導灯など)と、水回り・鍵・寝具まわりの整備です。営業形態(住宅宿泊事業か簡易宿所か)で要求仕様が変わるため、先に制度を決めてから内装を設計します。
カプセル・ホステル:什器ユニットが主役
坪80〜180万円の幅は、導入するカプセルユニット・ベッド什器のグレードでほぼ説明できます。内装工事そのものより「什器+共用水回り(シャワーブース数)」の計画が費用の骨格で、1ベッドあたりで採算を組む点は1室単価の変形と考えると分かりやすいはずです。
客室の費用は「1室単価×室数」で読む──量産と一点物の配分
宿泊施設の内装費の骨格は客室です。客室は面積のわりに、ベッド・UB(ユニットバス)・建具・照明・空調と要素が詰まった高密度ユニットで、しかも同じ仕様が10室、50室と反復します。だから費用は「1室単価×室数」でほぼ決まります。
1室単価の目安(改装の場合)
表層中心の改装(クロス・床・家具・照明の更新)なら、ビジネスホテルで1室120〜200万円、シティ・リゾートで1室250〜500万円が一般的な目安です。ここにUB交換など水回り更新が入ると1室あたり100〜300万円が上乗せされます。旅館の和室は畳・建具・壁の素材グレードで振れ幅が大きく1室200〜400万円、露天風呂付き客室への改修は給排水・防水・躯体補強が絡むため1室800万〜1,500万円級になることも珍しくありません。
新築の内装(スケルトンからの造作)では、客室まわりだけで改装の1.5〜2倍程度を見込むのが安全です。設備インフラ(給排水の縦管、電気容量、換気ダクト)をゼロから引くためです。
「量産」と「一点物」──予算配分の型
ここで宿泊施設に固有の予算配分の考え方があります。客室のUB・建具・照明・家具を全室で共通化するほど、発注ロットがまとまり1室単価は下がります。これが「量産」の効果で、コスト削減の王道です。一方で、宿泊単価(ADR)を引き上げるのは、露天風呂付き客室やスイートのような「一点物」です。
全室を一点物にすると費用が跳ね上がり、全室を量産にすると単価競争から抜けられません。実務上バランスが良いとされるのは、予算の8〜9割を標準客室の量産で締め、1〜2割を一点物の特別室に集中投下する配分です。見積もり段階で「標準室の仕様統一でいくら下がるか」「特別室に回せる原資はいくらか」を分けて聞くと、工事会社の提案力も見えます。
客室費用を見積もる前のチェック
- 室数と客室タイプ数を確定したか(タイプが増えるほど単価は上がる)
- UB・建具・照明を全室共通仕様にできるか検討したか
- 特別室(一点物)に回す予算枠を先に決めたか
- 新築か改装かで1室単価の前提が1.5〜2倍違うことを織り込んだか
1室単価は工事会社によって差が出やすい項目です。複数社の「室単価」を並べて比べましょう。
水回りが総額を決める──客室バスの防水寿命と大浴場
「同じ規模・同じ見た目の改装なのに、見積もりが2倍違う」。この現象の正体は、ほとんどの場合、水回りです。ホテル・旅館の改装費が読みにくい最大の理由は、客室のUBと大浴場という2つの水回りが、築年数によって「やる・やらない」を選べなくなる時限装置だからです。
客室UB:防水層の寿命が選択肢を消す
UBの防水層や配管の寿命は、一般に15〜20年が目安とされます。築浅なら「クロスと家具だけ替える」表層改装で済みますが、寿命を越えた物件で表層だけ綺麗にすると、数年後の漏水で二重工事になるリスクを抱えます。UB交換は1室あたり100〜300万円(サイズ・搬入経路・配管更新の範囲で変動)で、50室なら水回りだけで5,000万円級。築年数が総額を2〜3倍動かすのはこのためです。
大浴場:ろ過・ボイラー・防水の三点セット
旅館・温浴系ホテルの大浴場は、見えない設備が費用の主役です。浴槽まわりの防水・タイル改修だけで1,000万円級、ろ過設備の更新で500万円〜、ボイラー・熱源の更新で300万円〜が一般的な目安で、全面改修になると2,000万〜1億円の幅で語られます。露天風呂の新設は、給排水の引き回しと防水、躯体・構造の確認が絡むため、坪数の小ささのわりに高額になります。
見積もり前に必ず確認する2点
①直近の防水改修・配管更新の時期(修繕履歴)②ボイラー・ろ過機の設置年と点検記録。この2点を工事会社に渡せるかどうかで、見積もりの精度と追加費用リスクが大きく変わります。履歴が不明な築古物件は、調査費をかけてでも先に劣化診断を入れる価値があります。
旅館の改装費用──和室・温泉・畳と建具の固有コスト
「旅館 改装 費用」で調べている方のために、ホテルと分けて旅館固有の費用構造を整理します。旅館の見積もりが読みにくいのは、費用の柱が「和の素材」と「温泉設備」という、一般のホテルにない2系統だからです。
和の素材:同じ8畳間でも数倍違う
和室の改装は、畳の表替えか新調か、縁の有無、障子・襖を貼り替えるか建具ごと新調するか、壁を量産クロスにするか左官仕上げ(聚楽・珪藻土)にするかで、1室200万円台から400万円超まで変わります。床の間・書院・欄間など造作が残る客室は、活かすほど職人の手間が乗る一方、宿の個性として宿泊単価に直結する部分でもあります。全部を新建材に置き換えると安くはなりますが、旅館が旅館である理由も一緒に消えるため、「残す造作・替える造作」の仕分けが見積もり前の最重要作業です。
温泉設備:泉質が費用と周期を決める
温泉付きの施設では、源泉の泉質そのものがコスト要因になります。硫黄成分の強い泉質は金属配管や熱交換器の腐食が早く、更新周期が短くなるのが一般的です。かけ流しか循環(ろ過)かでも設備構成は変わり、循環系はろ過機・熱源の更新費が、かけ流しは配管洗浄・湯量管理のランニングが重くなる傾向があります。改装のタイミングで源泉配管・貯湯槽・熱交換器の劣化診断を同時に行い、更新を工事に含めるかを判断するのが、後戻りの少ない進め方です。
営業を止めない改装が前提になりやすい
旅館は常連客・予約サイトの評価で商売が回っているため、長期休業が選びにくい業態です。棟や階を分けて順番に工事する方式が基本になりますが、和室は資材搬入や養生の手間が洋室より大きく、分割工事の割増が出やすい点は見込んでおいてください。休業損失との損得計算はs11で詳しく扱います。
旅館の改装は、和室と温泉設備の両方に実績がある会社選びが肝心です。
共用部の費用──ロビー・レストラン・宴会場の転用
客室が「量産」なら、共用部は施設の顔を作る「一点物」です。面積あたりの単価は客室より高くなりやすく、どこに張ってどこを締めるかの設計判断がそのまま総額に響きます。
ロビー・フロント
第一印象と評価写真を決める区画で、500万〜3,000万円と幅広いのが実情です。天井高の変更、特注カウンター、照明計画で金額が動きます。チェックインの省人化(自動精算・スマートロック)を同時に入れる場合は、内装と別枠で設備費を見込みます。
レストラン・朝食会場
内装は坪40〜80万円が目安で、厨房設備は別枠です。宿泊業の食事会場は回転が読める分、席数を絞ってオペレーションを軽くする設計が費用対効果に優れます。換気・給排気は保健所検査に直結するため、飲食対応の実績がある会社に任せるのが安全です。
宴会場の転用──使っていない床は負債
稼働の落ちた宴会場は、旅館・地方ホテルの隠れた費用テーマです。個室食事処への分割は1室50〜300万円程度から可能とされ、コワーキング・湯上がりラウンジへの転用も選択肢になります。転用は「新しく作る」より安く、稼がない床を稼ぐ床に変える投資なので、全館改装の際は必ず検討台に載せてください。
見積内訳の10カテゴリと見積書のチェックポイント
相見積もりを取ると、各社の見積書は項目名も粒度もバラバラで、そのままでは比べられません。どの見積書も、次の10カテゴリに仕分けし直すと横並びで比較できます。
比較のやり方:3系統の設備をまず見る
宿泊施設の見積もりで差が出やすいのは、給排水・電気・空調の設備3系統です。ここで全体の3割前後を占めるのが通常なので、極端に薄い見積もりは「現地をよく見ていない」か「別途工事として後出しになる」可能性を疑います。逆に仕上げ材の単価差は見た目ほど総額に効きません。
見積書チェックリスト(受け取ったら10分でここを見る)
- 「一式」表記が多くないか──客室工事は「◯室×単価」に分解されているか
- 設備3系統(水・電気・空調)が合計3割前後あるか、別途扱いになっていないか
- 仮設・養生・搬入費が入っているか(分割工事では特に増える項目)
- 消防・防災設備(自動火災報知・誘導灯など)の項目があるか
- 解体後の追加費用の扱い(発見事項の単価表・上限)が書かれているか
- FF&E(家具・什器・備品)が工事費に含まれるか別枠か
見積もりの取り方・比べ方の全体像は見積もり比較の完全ガイドで、坪単価という指標の扱い方は内装工事の坪単価ガイドで詳しく解説しています。
地域による違い──都市部・リゾート地の傾向
同じ工事でも、地域によって金額は変わります。一般的な傾向として、東京を頂点とする都市部は職人単価・搬入条件の面で高く、地方は1〜2割程度低くなることが多い一方、リゾート地・離島は都市から遠いほど割高になります。資材輸送費、職人の宿泊費、工期の長期化が乗るためで、沖縄や山間のリゾートで「地方なのに東京並み」という見積もりは珍しくありません。
また積雪地は工期が冬季に制約され、温泉地は前章の泉質要因が加わります。冒頭のシミュレーターには47都道府県の目安係数を組み込んでいるので、自分の地域の概算に補正した金額で検討を始めてください。ただし同じ県内でも市街地と山間部で条件は変わるため、最終的には現地を見た複数社の見積もりが唯一の正解です。
| 規模の目安 | ビジネスホテル水準(坪50〜150万円) | シティ・リゾート水準(坪150〜250万円) |
|---|---|---|
| 20坪(客室フロア一部など) | 1,000〜3,000万円 | 3,000〜5,000万円 |
| 50坪 | 2,500〜7,500万円 | 7,500万〜1.25億円 |
| 100坪 | 5,000万〜1.5億円 | 1.5〜2.5億円 |
総額は「坪数×坪単価」の単純積算による全国目安です。都市部(東京・大阪圏)はここから+10〜25%、地方は−10〜20%、輸送・宿泊費が乗る離島・山間リゾートは地方でも都市部並みになることがあります。1室単価で読む場合は前章の「客室は1室単価×室数」をご覧ください。
法規と手続き──旅館業法・建築基準法・消防法
宿泊施設の内装は、金額の前に「そもそも営業できる工事か」を法規で確認する必要があります。ここを後回しにすると、完成後に是正工事という最悪の追加費用が発生します。以下は一般的な枠組みの整理で、具体の要件は必ず所管の保健所・消防署・建築主事(自治体)に事前相談してください。
旅館業法:営業許可と客室の最低基準
ホテル・旅館として営業するには旅館業の許可が必要です。現行制度では旅館営業とホテル営業は「旅館・ホテル営業」に一本化されており、客室の最低床面積は一般に1室7㎡以上(寝台を置く場合は9㎡以上)とされています。玄関帳場(フロント)の設置基準は自治体条例により異なり、ICT機器による代替が認められる場合もあります。民泊(住宅宿泊事業)は年間営業日数の上限がある別制度で、簡易宿所営業とあわせて、どの制度で営業するかにより必要な内装仕様が変わります。
建築基準法:用途変更と内装制限
事務所ビルや倉庫をホテルにする場合など、建物の用途を変える改修では、一般に床面積200㎡を超える用途変更に確認申請が必要とされます。また宿泊施設は特殊建築物として、壁・天井の仕上げ材に燃えにくい材料を求める内装制限や、廊下幅・階段・排煙などの避難規定が関わります。デザイン先行で仕上げ材を決めると、後から不燃・準不燃材への変更で費用が跳ねるため、設計段階で法規チェックを通すのが結局は安上がりです。
消防法:自動火災報知・誘導灯・防炎物品
宿泊施設は就寝を伴うため、消防設備の要求水準が店舗より高くなります。自動火災報知設備、誘導灯、消火器等に加え、カーテン・じゅうたん類には防炎物品の使用が求められるのが一般的です。規模・階数によってはスプリンクラーや無窓階の扱いなど専門判断が必要な論点もあるため、着工前に所轄消防署への事前相談を必ず工程に入れてください。工事会社選びの段階で「宿泊施設の消防検査の経験があるか」を聞くのは、費用ブレを防ぐ実用的な質問です。
費用への影響を一言で
法規対応は「削れないコスト」です。見積もり比較では、消防・避難・内装制限への言及が薄い安値の会社より、法規リスクを先に洗い出して金額に織り込む会社のほうが、総額では安く終わるのが典型パターンです。
営業しながらの改装──フロア分割と全館休業の総コスト比較
改装で最も見落とされるコストは、見積書に載らない休業損失です。工事費の比較だけで方式を決めると、判断を誤ります。計算式は単純です。
休業損失の計算式
休業損失 = 客室数 × 平均客室単価(ADR)× 稼働率 × 休業日数。例えば20室・ADR12,000円・稼働率70%の施設が1ヶ月休むと、20×12,000×0.7×30 = 約504万円の売上が消えます。50室クラスなら月1,000万円級です。
全館休業方式:工事費最安・機会損失最大
建物を空にして一気に施工するため、養生・工程の効率が良く工事費は最も下がります。閑散期が明確な観光地や、どのみち低稼働の時期がある施設では有力です。再開時にリニューアルを告知して単価を上げやすいのも利点です。
フロア分割方式:工事費+10〜15%・売上は継続
1フロアずつ順に止めて工事する方式で、養生・搬入動線・騒音時間帯の制約から工事費は一般に1〜2割程度の割増になります。代わりに営業は続くため、稼働が高い施設ほど総コストで有利になります。実務上の要点は、稼働客室と工事エリアの動線・騒音・粉塵を切り分けられる施工計画で、宿泊営業中の工事経験がある会社かどうかで宿泊客のレビューへの影響がまったく変わります。騒音の大きい解体・斫り作業をチェックアウト後〜チェックイン前の時間帯に限定する、といった運用は宿泊施設の分割工事の定石です。
どちらが得かは稼働率・ADR・工期の3つで決まるため、一般論に正解はありません。冒頭のシミュレーターは営業方式を選ぶと休業損失込みの総コストを並べて出すので、自施設の数字で比較してください。
追加費用が出る典型パターンと予備費の積み方
宿泊施設の改装は、解体して初めて分かる事項が多い工事です。典型的な追加費用のパターンを知り、予備費をあらかじめ予算に組み込むことが、資金計画の生命線になります。
追加費用の典型パターン
- 解体後に判明する漏水跡・下地腐食・配管劣化(水回り直下の階は特に)
- アスベスト含有材の発見による調査・除去費(築古物件)
- 電気容量の不足──空調増強や厨房電化で受電設備の更新が必要になる
- 消防・保健所協議での仕様変更(排煙・区画・給排気の追加)
- 資材・設備の納期遅延による工期延長と仮設費の増加
予備費の目安は、表層中心の改装で工事費の10%前後、水回り更新や築古物件を含む場合は15〜20%を推奨します。予備費を「使わなければ利益」と捉え、最初から見積総額とは別枠で確保しておくと、追加が出ても工事が止まりません。逆に予備費ゼロの資金計画は、追加発生時に仕様ダウンか資金繰り悪化の二択を迫られます。
新築・改装・コンバージョン・居抜きの選び方
同じ「宿を開く・刷新する」でも、入口の選択で費用構造が根本から変わります。
改装(リニューアル)
既存の宿泊施設を刷新する王道です。費用はこれまで見てきた通り「1室単価×室数+共用部+水回り」で組み立ちます。投資判断の軸は回収期間で、増える粗利(ADRの上昇分×稼働率×室数×365日)で工事費を割ると年数が出ます。例えば改装でADRが1,500円上がり、稼働率70%・30室なら年間の増収は約1,150万円。3,000万円の改装なら3年弱で回収する計算です。この式に乗らない改装は、金額の大小にかかわらず投資として見直す余地があります。
コンバージョン(用途変更)
事務所・社宅・倉庫などを宿泊施設に転用する方式で、立地の良い既存建物を安く仕込める可能性がある一方、給排水の縦管増設・水回り新設・避難計画・用途変更の確認申請と、改装より工事も手続きも重くなります。1室あたりの水回り新設が費用の中心になるため、「各階に水を通せる建物か」が物件選定の最重要チェックです。
居抜き(前が宿泊施設)
廃業した旅館・ホテルを居抜きで引き継ぐ方式(設備ごと譲り受ける事業承継を含む)は、UB・浴場・厨房が残るため初期費用を大きく圧縮できる可能性があります。ただし引き継ぐのは設備の残存寿命ごとです。防水・配管・ボイラーの残り寿命を診断せずに引き継ぐと、開業後に時限装置が作動します。譲渡対価と設備更新費の合計で、スケルトンからの計画と比較してください。契約面の注意点は店舗物件の賃貸契約ガイドも参考になります。
新築内装
設備インフラをゼロから引くため客室単価は改装の1.5〜2倍級ですが、法規・レイアウトの制約が最も少なく、量産と一点物の配分を設計段階から最適化できます。建設費(躯体側)とは物差しが別であることだけ、繰り返し注意してください。
物件・建物側の制約で費用は先に決まっている
内装費用の大部分は、実は工事会社を選ぶ前、物件を決めた瞬間にほぼ決まっています。契約前に次の4点を確認するだけで、後からの想定外を大きく減らせます。
受電容量と給排水の縦管
客室数分の空調・給湯・調理設備を動かす電気容量が足りないと、受電設備の更新という大物工事が発生します。同様に、各階へ水を送る縦管・排水の系統が細い建物では、客室のUB新設が構造的に高くつきます。コンバージョン候補の建物では、この2つが「安く見えて高い物件」を見抜く最初のフィルターです。
エレベーター・搬入経路
UBや大型家具は、搬入できなければ分割搬入・クレーン・手上げとなり、そのぶん費用と工期が乗ります。エレベーターの籠サイズ、廊下の曲がり、開口寸法は、見積もり前に工事会社と現地で確認しておくべき項目です。都市部の細長いビルほどこの制約が効きます。
賃貸なら原状回復とA・B・C工事区分
テナントとして借りる場合は、退去時の原状回復範囲と、ビル側指定業者で行うB工事の範囲が総費用を左右します。B工事は競争原理が働きにくく割高になりやすいため、契約前に区分表を確認し、交渉余地を探ってください。詳しくは店舗物件の賃貸契約ガイドで解説しています。
修繕履歴と劣化診断
水回りの章で述べた通り、防水・配管・熱源の履歴が費用の振れ幅を決めます。履歴が出てこない物件は、その不確実性ぶん予備費を厚く(15〜20%)積むか、契約前に劣化診断を入れるかの二択で考えるのが安全です。
コストダウンの正攻法と、削ってはいけない箇所
費用を抑える方法には、効果が大きく後遺症のない「正攻法」と、数年後に高くつく「悪手」があります。
正攻法:単価より数量と仕様統一で下げる
最も効くのは、これまで述べた客室仕様の統一(量産化)です。UB・建具・照明・家具を全室共通にすると、発注ロットと施工の反復効果で1室単価が下がります。次に効くのは工事範囲の絞り込みで、全室一斉ではなく劣化の進んだフロアから段階施工にすれば、キャッシュフローも平準化できます。照明はデザインと省エネの両面で費用対効果が高い領域なので、店舗照明の設計ガイドの考え方が宿泊にもそのまま使えます。
相見積もり:単価を下げる交渉より配分を見る
複数社の見積もりを取る目的は、値切りではなく費用配分の妥当性検証です。同じ要件で2〜3社に依頼し、10カテゴリ仕分けで並べると、どの会社がどこを厚く見ているかが一目で分かり、話し合いの土台ができます。
削ってはいけない箇所
防水・配管・消防・換気の4つは、削ると数年内に倍返しになる領域です。特に換気は宿泊体験(におい・カビ・結露)とランニングコストに直結し、後から直すのが最も高くつく設備のひとつです(考え方は店舗換気の完全ガイド参照)。見た目に出ない設備を削って見た目に張る配分は、レビュー時代の宿泊業では逆効果と考えてください。
デザイン・インバウンド・ユニバーサル対応と費用
宿泊施設の内装は、コストであると同時に客室単価(ADR)を決める投資です。削る話ばかりでなく、張ったぶんが返ってくる領域を押さえておきます。
写真映えする1カットに投資を集中する
予約サイト・SNS経由の集客では、宿泊者が撮りたくなる場面が実質の広告塔になります。全館を均等に良くするより、ロビーの1壁面、浴場の1アングル、特別室の1シーンに投資を集中するほうが、費用対効果は高くなります。これは「量産と一点物」の配分論のデザイン版です。
インバウンド対応は内装段階で仕込むと安い
多言語サイネージの設置スペース、大型スーツケースが開ける客室動線と荷物置き、洗い場付き浴室やベッド仕様の和洋室化などは、開業後に追加すると割高ですが、内装設計の段階なら大きな追加費用なく織り込めます。礼拝や食習慣への配慮スペースも同様で、狙う客層に合わせて設計段階で判断しておく項目です。
バリアフリー・ユニバーサル対応
段差解消、手すり、車椅子対応客室、視認性の高いサイン計画などは、法令・条例で求められる場合と、任意で上乗せする場合があります。要求水準は施設規模・自治体により異なるため、設計段階で建築士・自治体に確認してください。高齢の常連客が多い旅館では、客室1〜2室のユニバーサル化が指名予約の維持に直結する、費用対効果の高い改修になりやすい領域です。
内装業者の選び方と見積もりの取り方
宿泊施設の内装は、店舗内装の中でも「水回りの塊」「就寝を伴う避難・消防」「営業しながらの施工」という特殊条件が重なる分野です。会社選びの基準もそこに合わせます。
会社選定の確認ポイント
- 宿泊施設(ホテル・旅館・簡易宿所)の施工実績があるか──客室・浴場の写真で確認
- 消防・保健所検査を通した経験を具体的に語れるか
- 営業継続中の分割工事の経験があるか(騒音時間帯の運用まで答えられるか)
- 設備3系統を自社または固定チームで施工できるか(丸投げ再委託は品質ブレ要因)
- 解体後の追加費用の扱い(単価表・報告ルール)を契約前に明文化できるか
見積もりは同一要件で2〜3社が基本です。1社では相場感が持てず、4社以上は要件のブレで比較精度がむしろ落ちます。要件書には、室数・工事範囲・水回り更新の有無・営業方式(休業か分割か)・想定グレードを明記して、各社の前提をそろえてください。前提がそろって初めて、金額差は「会社の実力差」として読めるようになります。
宿泊施設の実績がある複数の会社から、同一条件で見積もりを取りましょう。店舗オーナー側は無料で利用できます。
開業・改装の流れと工期
宿泊施設の工期は、施工そのものより法規協議と検査の待ち時間で延びます。逆算の起点は繁忙期です。
施工期間の目安は、客室改装がまとまった室数で10室あたり1〜1.5ヶ月、全館改装(50室級)で4〜8ヶ月、コンバージョン・新築内装はさらに設計・申請期間が乗ります。大浴場を含む場合は防水の養生期間が工程のボトルネックになりがちです。開業日・再開日から逆算し、消防検査・保健所検査の予約が繁忙期前に集中して取りにくくなる点も織り込んで、余裕を持った工程を組んでください。
よくある質問
Q1. ホテルの内装工事は坪いくらですか?
内装工事費の一般的な目安は、ビジネスホテルで坪50〜150万円、シティ・リゾートで坪150〜250万円、ラグジュアリーで坪250〜350万円です。ただし宿泊施設は坪単価より「1室単価×室数」で見るほうが実態に合います。新築の総建設費とは物差しが別です。
Q2. 客室1室のリフォームはいくらかかりますか?
表層中心(クロス・床・家具・照明)ならビジネスクラスで1室120〜200万円、UB交換など水回り更新を含むと+100〜300万円/室が目安です。グレードと築年数で変動します。
Q3. 旅館の大浴場の改修費用はどれくらいですか?
防水・タイル改修で1,000万円級から、ろ過設備更新500万円〜、ボイラー更新300万円〜が一般的な目安で、全面改修は2,000万〜1億円の幅で語られます。設置年と点検記録を工事会社に渡すと見積もり精度が上がります。
Q4. 営業しながら改装できますか?
フロアや棟を分割すれば可能です。工事費は1〜2割程度割増になりますが、休業損失(客室数×ADR×稼働率×日数)を回避できます。どちらが得かは稼働率次第なので、本文の計算式とシミュレーターで比較してください。
Q5. 内装費用を抑える一番効果的な方法は?
客室仕様の統一(UB・建具・照明・家具の共通化)です。発注ロットがまとまり1室単価が下がります。防水・配管・消防・換気を削るのは、数年内に高くつくため推奨しません。
Q6. 見積もりは何社から取るべきですか?
同一要件で2〜3社が目安です。要件書に室数・工事範囲・水回り・営業方式を明記して前提をそろえると、金額差を実力差として比較できます。
Q7. 事務所ビルをホテルにできますか?
コンバージョンとして可能ですが、一般に床面積200㎡超の用途変更は確認申請が必要とされ、給排水の増設・避難計画・消防設備が費用の中心になります。「各階に水を通せる建物か」が最初の判定ポイントです。要件は自治体・所轄消防に必ず事前相談してください。
Q8. 工期はどれくらい見ればよいですか?
客室改装で10室あたり1〜1.5ヶ月、全館(50室級)で4〜8ヶ月が目安です。法規協議・検査の待ち時間が加わるため、開業・再開希望日から半年〜1年の逆算で動くのが安全です。
Q9. 民泊とホテルではどちらが安く始められますか?
既存住宅を使う民泊・簡易宿所は坪20〜60万円・1室50〜150万円程度が目安で、初期費用は最小です。ただし営業日数や客室基準など制度が異なるため、事業計画に合う営業形態を先に決めてから内装を設計してください。
Q10. 設計・デザイン料の相場はいくらですか?
内装の設計・デザイン料は、一般に工事費の8〜15%程度と言われます。設計施工一括の会社では工事費に内包される場合もあるため、見積もり比較では設計料の扱い(別枠か内包か)をそろえて確認してください。
まとめ──数字の骨格をつかんだら、相見積もりへ
ホテル・旅館の内装費用は、①物差しをそろえ(建設費・内装費・1室単価)、②1室単価×室数で骨格を作り、③水回りと築年数で振れ幅を読み、④休業損失まで含めた総コストで方式を選ぶ──この4段で、もう他人の相場記事に振り回されない判断軸が持てます。
最後の精度を出すのは、現地を見た複数社の見積もりだけです。同一要件・2〜3社・10カテゴリ仕分けで比較すれば、金額の妥当性は自分で判定できます。
自分の業種の数字がつかめたら、他業種との比較で相場感を立体化できます。店舗内装費用の相場一覧(60業種の坪単価比較・シミュレーター付き)で横断できます。
要件を入力すると、ホテル・旅館の実績がある内装会社の複数見積もりを無料で比較できます。
この記事について(運営者情報)
本記事は、店舗内装ドットコム(株式会社BPBコンサルティング運営)が、当サイトに公開されている施工事例と、公的資料・法令(旅館業法〈営業許可・構造設備の基準〉、消防法〈特定防火対象物としての内装制限・防炎規制・消防用設備〉、建築基準法、日本政策金融公庫総合研究所「新規開業実態調査」)を整理して作成・更新しています。最終更新:2026年7月23日。
作成・検証の方法:記載レンジは、公開されている複数の施工会社・専門メディアの提示額を横断照合し、重なり合う帯を採用したうえで、法令・公的調査の数値と突合して作成しています。金額はいずれも一般的な目安であり、正確な費用は現地調査を経た見積もりでのみ確定します。動物取扱業の登録・数値基準の運用は自治体で異なるため、図面段階での事前相談をおすすめします。
