店舗の内装打ち合わせで必ず出てくるのに、いちばん説明されないのが「内装制限」です。結論からいうと、内装制限とは壁と天井の仕上げ材を燃えにくい等級にするルールで、飲食店は厨房(火気使用室)でほぼ確実に関わります。そして出店者がやるべきことは条文の読解ではなく、内装会社に「3つの質問」をして、図面に等級が書かれているか検収することです。
この記事では、対象になるかどうかの見取り図、不燃・準不燃・難燃の違い、費用がいくら動くか、木の内装をあきらめない方法、居抜きの落とし穴までを、出店者の目線で整理します。
この記事の位置づけ
本記事は制度の概要を出店者向けに整理したものです。個別の建物への適用判定は、建築士等の専門家と、特定行政庁・指定確認検査機関・所轄消防署への確認が必要です。
この記事の要点
- 対象は壁と天井(床は対象外)。仕上げ材を不燃・準不燃・難燃の等級で選ぶ
- 厨房(火気使用室)は規模によらず対象になり得る。客席は構造×階数×床面積で決まる
- 費用は仕様しだいで数万〜数十万円動く。「適法性の話」ではなく「見積の話」として扱う
- 木の内装は緩和と不燃木質材で実現できる場合が多い
- 出店者の実務は「会社に聞く3問」と図面検収に集約される
内装制限とは——壁・天井の仕上げ材の等級規制
内装制限は、建築基準法(第35条の2、施行令第128条の4・第129条)にもとづく規制で、火災のときに内装材が燃え広がりを加速させないよう、壁と天井の仕上げを燃えにくい材料にすることを求めるものです。炎と煙の回りを遅らせ、避難の時間を確保することが目的です。
対象になるのは壁と天井の「仕上げ」で、床は対象外です。炎や煙が上に向かう性質を踏まえた制度設計で、回り縁・窓台なども除かれます。また、居室の壁は床から1.2m以下の腰壁部分が除外される場合があるなど、細部には緩和が組み込まれています。
「内装がダサくなる規制」ではない
内装制限は使える材料をゼロにする制度ではなく、「等級を満たす材料から選ぶ」制度です。不燃・準不燃の化粧板やクロスは意匠の選択肢が豊富にあり、後述のとおり木質の仕上げにも道があります。
建築基準法と消防法——混同されやすい2つの制度
「内装制限」と一緒に語られがちなものに、消防法の防炎規制(消防法第8条の3)があります。別の制度なので、分けて理解すると混乱しません。
対象物
- 建築基準法の内装制限壁・天井の仕上げ材(建築の一部)
- 消防法の防炎規制カーテン・じゅうたん・幕など(動かせる物品)
求められること
- 建築基準法の内装制限不燃・準不燃・難燃の等級で仕上げる
- 消防法の防炎規制防炎性能のある「防炎物品」(防炎ラベル)を使う
店舗での典型
- 建築基準法の内装制限厨房・客席・通路の壁天井の材料選定
- 消防法の防炎規制客席のカーテン、じゅうたん、暖簾類
主な確認先
- 建築基準法の内装制限建築士・特定行政庁・指定確認検査機関
- 消防法の防炎規制所轄の消防署
飲食店は消防法施行令の別表で防火対象物に位置づけられており、カーテンやじゅうたんを使う場合は防炎物品が求められるのが基本です。内装工事の見積もりとは別に、備品側でもこの規制がかかる、と覚えておくと整理できます。
※排煙設備・避難経路・防火区画は、内装制限と関連しますが別系統の規定です。本記事では仕上げ材の等級に絞って扱います。
対象になるかの見取り図——業態×規模×構造×階
内装制限の対象になるかは、大きく4つの入口から決まります。飲食店・物販店などは「特殊建築物」として扱われるため、まずここが起点です。
飲食店・物販店・ホテルなどは、規模の条件を満たすと客席等の居室が対象になります。
コンロなど火を使う設備のある厨房は、規模によらず対象になり得ます(次章)。
排煙上有効な窓のない部屋や、地下の店舗は制限が強くかかる方向になります。
階数や延べ面積の大きい建物では、用途によらず対象になる場合があります。
特殊建築物としての規模の目安は、建物の構造区分によって変わります。飲食店・物販店の系統ではおおむね次の水準が知られていますが、条文の適用は構造・階の数え方で変わるため、必ず設計者に個別確認してください。
耐火建築物等
- 対象になる規模の目安(飲食店・物販店の系統)3階以上の部分の床面積合計が1,000㎡以上
準耐火建築物等
- 対象になる規模の目安(飲食店・物販店の系統)2階部分の床面積合計が500㎡以上
その他の建築物
- 対象になる規模の目安(飲食店・物販店の系統)床面積合計が200㎡以上
※スプリンクラー等の自動式消火設備と一定の排煙設備を設けた部分には適用されない除外規定があります。また自治体条例で独自の付加がある場合があります。
無窓居室と地階——見落とされやすい強化ゾーン
採光や排煙の窓が取れない部屋(無窓居室)は、避難の難度が上がるため内装制限が強くかかる方向になります。雑居ビルの中間区画や、窓を塞いでシアター的な空間を作る計画は、意匠の話の前に無窓扱いの確認が必要です。
また、地下の飲食店・物販店は地上より制限が厳しくなる系統で、仕上げの等級だけでなく排煙・避難の計画と一体で難度が上がります。地下物件は賃料が魅力的に見えても、内装側のコストと設計条件を含めて比較するのが安全です。
厨房(火気使用室)の扱い——飲食店がほぼ確実に関わる理由
飲食店にとっての本丸は厨房です。コンロなど火を使用する設備が固定されている部屋は「火気使用室」として、住宅以外の建物では店の規模によらず内装制限の対象になり得ます。仕上げは準不燃以上が基本形です。
コンロ周りを強化して、他をゆるめる考え方
コンロ周辺の一定範囲を特定不燃材料で強化することで、室内の他の部分の扱いがゆるやかになる告示仕様(平成21年国土交通省告示第225号)があります。オープンキッチンや見せる厨房の設計で使われる考え方ですが、適用条件が細かいため設計者の検討が前提です。
なお、IH調理器のみで火を使わない厨房は「火気使用室」に当たらないと扱われる場合がありますが、判断は所轄・審査機関によって確認が必要です。ここは出店者が自己判定せず、物件と設備計画を添えて設計者に確認する部分です。
不燃・準不燃・難燃——等級と店舗でよく使う材料
等級は「通常の火災の加熱に対して、燃えず・有害な変形や煙を生じない時間」で決まります。
不燃材料
- 基準時間20分
- 店舗でよく使う材料の例石膏ボード12.5mm、けい酸カルシウム板、不燃メラミン化粧板、不燃クロス(認定品)、スチールパネル、モルタル・タイル
準不燃材料
- 基準時間10分
- 店舗でよく使う材料の例石膏ボード9.5mm、木毛セメント板、岩綿吸音板(天井)、準不燃認定の化粧板・クロス
難燃材料
- 基準時間5分
- 店舗でよく使う材料の例難燃合板5.5mm、難燃認定の化粧材
実務では「どの部屋に、どの等級以上を使うか」を設計者が割り付けます。目安として、客席などの居室は難燃以上(3階以上の階の天井は準不燃側に強化)、廊下・階段は準不燃以上、厨房は準不燃以上という組み立てが基本形ですが、建物条件で変わります。仕上げ表(仕上げ材のリスト)に等級が書かれているかが、後述の検収ポイントです。
費用への効き方——「適法性の話」ではなく「見積の話」
出店者にとっての内装制限は、法律論より先に見積金額の話です。同じ見た目でも、等級を満たす材料は単価が上がることがあります。典型的な差の帯を示します(製品・数量で大きく変わる概算です)。
クロス級の差
+数百円/㎡
- 一般クロス→不燃・準不燃クロス
- 意匠の選択肢は豊富
- 総額への影響は小さめ
化粧板級の差
+3千〜8千円/㎡
- ポリ合板→不燃メラミン化粧板など
- 腰壁・厨房周りで面積が出やすい
- 総額に効きやすいゾーン
木質不燃級
1万〜3万円/㎡
- 突板不燃化粧板など
- 「本物の木の見た目」を等級内で実現
- 使う面を絞るのが定石
10坪店の概算イメージ(目安)
10坪前後の店舗では、壁と天井を合わせた仕上げ面積が100㎡前後になることが多く、クロス中心の計画なら差額は数万円、化粧板や木質不燃材を多用する計画では数十万円の幅で総額が動きます。内装制限を「あとから発覚」させると、この差額がそのまま追加費用になります。見積もりの段階で等級込みの仕様にしておくことが、いちばんの費用対策です。
等級はどこで確認できるか
材料の等級は、国土交通大臣の認定番号で確認できます。カタログや仕様書に「不燃:NM-◯◯◯◯」「準不燃:QM-◯◯◯◯」「難燃:RM-◯◯◯◯」の形式で記載されるのが一般的です。見積もりに材料名だけが並んでいる場合は、認定区分を仕上げ表に落としてもらうよう依頼してください。ここが書面化されていれば、完了検査や施設側の内装監理にもそのまま使えます。
「木の店」をあきらめない方法——緩和と材料の選択肢
「内装制限がかかる=木が使えない」ではありません。実務でよく検討される道筋は4つあります。
- 天井を準不燃以上にして、壁に木材を使う——2020年の告示改正(令和2年国土交通省告示第251号)で整理された仕様の方向性で、天井側を強化することで壁の木質仕上げに道が開けます。
- スプリンクラー等+排煙設備による適用除外——自動式消火設備と一定の排煙設備を設けた部分は内装制限が適用されない除外規定があります。
- 不燃・難燃の木質化粧板を使う——突板不燃化粧板など、天然木の見た目で等級を満たす材料が流通しています。
- 使う面を絞る——腰壁の除外や、対象外の造作・家具側で木の質感を出す設計上の工夫です。
どの道が使えるかは建物条件しだい
緩和はそれぞれ適用条件があり、組み合わせの可否は建物の構造・規模・設備で変わります。「木の雰囲気にしたい」という要望を最初に伝え、どの仕様で実現するかは設計者・内装会社の検討に乗せてください。
居抜き物件の落とし穴——「前の店のまま」は根拠にならない
居抜きは内装制限まわりで誤解が生まれやすい領域です。「前の店が営業していたから適法」とは限らず、改修する部分は現行の規定に合わせるのが原則です。契約前に次を確認してください。
居抜き契約前チェック
- 検査済証・確認済証の有無と、増改築の履歴が追えるか
- 既存の壁・天井仕上げの等級が仕上げ表や竣工図で確認できるか
- 厨房の位置・排気経路を変える計画か(変えるなら火気使用室まわりの再設計)
- 商業施設・ビルインの場合、内装監理室のルール(B工事区分・指定材料)があるか
- 用途変更(他業種→飲食など、200㎡超の場合の手続き)が必要か
- スプリンクラー・排煙設備の有無(緩和の前提が変わる)
この確認は出店者が単独で行うものではなく、内覧の段階で内装会社・建築士に同行または資料確認を依頼するのが実務的です。物件取得後に判明すると、設計やり直しと差額が同時に発生します。
業態別の効き方——どこで、どれくらい関わるか
飲食店(火を使う)
- 内装制限の関わり方の典型厨房が火気使用室として対象になり得る。客席は規模・階数しだい。排気・防火と一体で計画
カフェ・小規模飲食
- 内装制限の関わり方の典型小さくても厨房側は同様。木の内装の要望が多く、緩和・木質不燃材の検討頻度が高い
物販・サロン
- 内装制限の関わり方の典型火気がなければ厨房ルートは外れ、規模・階数・無窓居室・地階が論点
焼肉・高火力中華・天ぷら
- 内装制限の関わり方の典型火力と油煙が大きく、厨房の等級に加えて排気・防火設備の計画が重い。仕上げと設備を一体で見積もる
テイクアウト・ゴーストキッチン
- 内装制限の関わり方の典型客席が小さくても厨房側の扱いは同じ。厨房比率が高いぶん、内装費に占める等級材の割合はむしろ上がる
地下・無窓の店舗
- 内装制限の関わり方の典型制限が強くかかる方向。排煙・避難とセットで設計難度が上がる
介護・福祉施設
- 内装制限の関わり方の典型用途特有の基準が重なる領域。介護施設の内装制限ガイドで詳述
費用全体の中での位置づけは、店舗内装の費用相場ガイドとあわせて見ると掴みやすくなります。
確認申請・完了検査との関係
テナントの内装工事だけなら確認申請が不要な場合も多い一方、用途変更(延べ200㎡超で他用途→飲食店など)や大規模の修繕・模様替えに当たる場合は手続きが必要になります。手続きが要る計画では、仕上げ表の等級が審査・完了検査で現場と照合されるため、「図面に書いた等級」と「実際に貼った材料」の一致が最後まで問われます。
また商業施設やオフィスビルのテナント区画では、確認申請とは別に施設側の内装監理(B工事区分・指定材料・提出図書)が走ります。行政と施設の二重のチェックがある前提で、等級の書面化を最初から済ませておくと、後工程が軽くなります。
出店者の実務——内装会社に聞く「3つの質問」
ここまでの内容を、出店者は暗記する必要はありません。内装制限は店主が判定する法律ではなく、会社選びの検収項目です。次の3問を投げて、答えの質を見てください。
厨房・客席・通路を分けて、根拠つきで答えられるか。「たぶん大丈夫」で流す会社は危険信号です。
図面・仕上げ表に不燃/準不燃/難燃の等級が明記されるかを確認。書面に残ることが検収の核心です。
告示仕様・除外規定・木質不燃材のどれで組むか、選択肢を比較提示できる会社は設計力があります。
そして見積比較の局面では、各社の仕様書に等級が入っているかを同じ物差しで見ること。等級抜きの安い見積もりは、あとから差額になって戻ってきます。
よくある失敗3型
- 着工後の発覚——デザイン確定後に等級不足が分かり、材料変更と工期延長が同時に発生する型。設計の初期に対象範囲を確定させることでしか防げません。
- 居抜きの過信——「前の店が営業していた」を根拠に仕上げを流用し、改修部分の現行法適合や検査済証の不存在が後から問題になる型。契約前の資料確認が対策です。
- 等級抜きの安い見積もり——比較時に最安だった見積もりが等級材を含んでおらず、着工後の差額請求で逆転する型。相見積もりは「等級込みの仕様書」で条件をそろえて比べます。
よくある質問
内装制限とは何ですか?
建築基準法にもとづき、建物の壁と天井の仕上げ材を燃えにくい等級(不燃・準不燃・難燃)にするよう求める規制です。火災時の延焼と煙の発生を遅らせ、避難の時間を確保することが目的で、飲食店や物販店などの特殊建築物、厨房などの火気使用室が主な対象になります。床は対象外です。
小さな飲食店でも対象になりますか?
客席部分は建物の構造・階数・床面積の組み合わせで決まりますが、厨房はコンロなど火を使う設備がある「火気使用室」として、店の規模によらず対象になる場合があります。IH調理器のみで火を使わない場合など扱いが変わるケースもあるため、物件ごとに設計者・所轄への確認が必要です。
床やカウンター、家具も対象ですか?
内装制限の対象は壁と天井の仕上げで、床は対象外です。回り縁や窓台なども除かれます。可動の家具は建築の仕上げには含まれませんが、カーテンやじゅうたんなどは消防法の防炎規制という別の制度で防炎物品が求められる場合があります。
不燃・準不燃・難燃の違いは何ですか?
通常の火災の加熱に対して、燃えず・有害な変形や煙を生じない時間で区分されます。不燃材料は加熱開始後20分、準不燃材料は10分、難燃材料は5分が基準です。石膏ボードや不燃クロスなど、国土交通大臣が定める材料と認定を受けた材料があります。
内装制限で費用はどのくらい変わりますか?
仕上げの仕様によります。目安として、一般クロスを不燃クロスに変える場合で1㎡あたり数百円程度、化粧板を不燃タイプにする場合で1㎡あたり数千円程度の差が生じることがあります。10坪の店舗で壁・天井をあわせて100㎡前後になるため、仕様しだいで数万円から数十万円の幅で総額が動きます。あくまで概算で、数量と製品で変わります。
木の内装はできないのですか?
諦める必要はありません。天井を準不燃以上とすることで壁に木材を使える仕様(2020年の告示改正)、スプリンクラー等と排煙設備による適用除外、不燃・難燃処理された木質化粧板の採用など、複数の方法があります。どの方法が使えるかは建物条件によるため、設計段階で建築士・内装会社に相談してください。
居抜き物件なら内装制限は対応済みと考えていいですか?
そのままでは判断できません。前の店の仕上げが現在の基準に合っているとは限らず、改修する部分は現行の規定に合わせる必要があります。検査済証の有無、商業施設では内装監理室のルール、用途変更の要否などもあわせて、契約前に内装会社・建築士に現地確認してもらうのが安全です。
誰に確認すればいいですか?
個別の建物への適用判定は、建築士(設計者)と、建築基準法は特定行政庁・指定確認検査機関、消防法は所轄の消防署が確認先です。出店者としては、店舗の施工実績がある内装会社に物件情報を渡し、内装制限の扱いを設計段階で整理してもらうのが実務的です。
店舗の施工実績がある内装会社に、内装制限の扱いを含めて無料でまとめて相談できます。
一次情報・確認先
- 建築基準法(e-Gov法令検索)——第35条の2ほか
- 建築基準法施行令(e-Gov法令検索)——第128条の4・第129条ほか
- 消防法(e-Gov法令検索)——第8条の3(防炎規制)
免責と確認のお願い
本記事は2026年7月時点の制度の概要を出店者向けに整理したものです。法令・告示の適用は個別の建物条件によって異なります。実際の設計・工事にあたっては、建築士等の専門家と、特定行政庁・指定確認検査機関・所轄消防署にご確認ください。
運営:店舗内装ドットコム(運営会社情報)|最終更新日:2026年7月23日
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