2025年12月、改正建設業法が全面施行されました。建設業界向けのニュースに見えますが、実はこの改正は店舗オーナーが内装工事を発注するときの「見積もりの見方」「契約書の中身」「工期の決め方」を直接変えるルールです。従来の感覚のまま「もっと安くならないか」「開店日に間に合わせてほしい」と進めると、場合によっては発注者側が国土交通大臣等からの勧告・公表の対象になる場面すらあります。このページでは、法律の条文解説ではなく、店舗の内装工事を頼む発注者の目線で「何が変わり、契約前に何を確認すべきか」だけを整理します。確認申請や用途変更など建物側の法令は店舗改装の法令ガイドで扱っており、本ページは工事の「契約」に関する法律の話です。
目次
30秒でわかる要点
- 2025年12月に改正建設業法が全面施行。「著しく低い労務費」への引き下げ依頼は発注者側が勧告・公表の対象に
- 資材価格が変動した場合の請負代金の「変更方法」が契約書の法定記載事項になった。条項の無い契約書は要注意
- 「著しく短い工期」の契約は発注者・受注者の双方が禁止対象。無理な安請け合いをする会社ほど法令リスクを抱えている
- 発注者がやることは3つ:相見積もりで外れ値を弾く/契約書の変更方法条項を確認する/開店日を工期から逆算して決める
改正の全体像:3つの柱と施行時期
今回の改正(令和6年法律第49号、2024年6月公布)の背景は、建設業の担い手不足と、資材高騰のしわ寄せが職人の賃金(労務費)に及んでいる構造です。国はこれを「契約のルール」を変えることで是正しようとしており、その結果、公共工事だけでなく民間の店舗内装工事を含むすべての建設工事の請負契約が対象になっています。改正は2段階で施行されました。
| 施行時期 | 主な内容 | 発注者への意味 |
|---|---|---|
| 第1弾:2024年12月 | 資材高騰時の請負代金・工期の「変更方法」が契約書の法定記載事項に。受注者による高騰の「おそれ情報」の事前通知。変更協議への誠実対応 | 契約書に価格変更のルールが書かれる時代に。契約前の説明が制度化 |
| 第2弾:2025年12月 | 中央建設業審議会が「労務費に関する基準(標準労務費)」を勧告。著しく低い労務費の見積り提示・見積り依頼の禁止。原価割れ契約の禁止を受注者にも拡大。著しく短い工期の禁止を受注者にも拡大 | 「安くさせる」「急がせる」行為に法的な線引き。勧告対象は請負500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の工事 |
一次情報は国土交通省の改正法説明資料と「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン」(最新は第8版・2026年1月)で公開されています。以下では、この改正を店舗オーナーの実務に翻訳します。なお本ページは2026年7月時点の施行状況と公開資料に基づく一般向けの解説であり、個別の契約の法的判断を保証するものではありません。判断に迷う契約条件がある場合は、一次資料の確認とあわせて建設業法に詳しい専門家への相談をおすすめします。
なぜ「発注者」まで対象なのか──しわ寄せの起点だから
今回の改正が発注者にまで踏み込んだ理由は、価格のしわ寄せ構造にあります。内装工事の代金は、発注者から元請の内装会社へ、元請から下請の専門工事会社へ、そして職人の賃金へと流れます。発注者が相場を大きく下回る金額を求めると、そのしわ寄せは最終的に一番立場の弱い職人の労務費に行き着き、担い手不足と品質低下を招く──国はこの連鎖の起点が発注者の一言だと位置づけました。だからこそ、受注者への規制強化とセットで、民間の発注者に対しても勧告・公表という仕組みが用意されています。
実効性の面でも変化があります。国土交通省は通称「建設Gメン」と呼ばれる体制で請負契約の実地調査を行っており、改正後は取引の適正化に向けた監視が強化されているとされます。「民間同士の契約だから外からは見えない」という前提は、少しずつ崩れ始めています。発注者にとってこれは脅威ではなく、むしろ誠実な内装会社と適正な契約を結ぶ発注者ほど守られる方向の変化です。
新ルール①見積もり──「安すぎる」が法的リスクになった
標準労務費という「国の物差し」ができた
2025年12月から、中央建設業審議会が職種ごとの標準労務費(工事に通常必要と認められる労務費の基準)を勧告する仕組みが始まりました。これにより「この工事の人件費はいくらが適正か」に、国が示す物差しが存在する時代になりました。そして、受注者がこの基準を著しく下回る労務費で見積もりを出すことも、発注者が著しく下回る水準まで下げるよう依頼することも禁止されました。発注者が違反した場合は国土交通大臣等からの勧告、従わない場合は公表の対象になります。
「原価割れ」は受注する側も違反になった
従来から、発注者が地位を利用して原価に満たない金額で契約させることは禁止されていました(不当に低い請負代金の禁止)。改正では、受注者側が原価割れで受注すること自体も禁止されました。つまり「赤字覚悟で安く出します」という営業手法が法令違反リスクを含むようになり、極端な安値見積もりを出す会社は、品質の懸念に加えて法令遵守の姿勢にも疑問符が付く存在になったということです。
発注者が勧告される「依頼」とは、たとえばどんな行為か
国土交通省のガイドラインは、発注者側が問題になり得る行為の型を示しています。店舗内装の場面に引き付けると、たとえば見積もりの内訳を確認せずに「他社はもっと安かったから」と労務費水準を割り込む金額を一方的に指定する(いわゆる指値に近い依頼)、根拠を示さない一律の◯%カットを条件に契約を迫る、といった進め方です。ポイントは、交渉の有無ではなく「通常必要と認められる労務費を著しく下回らせるかどうか」に線が引かれたことです。内訳を見ながら、どの費目をなぜ調整するのかを話し合う交渉は、改正後もまったく問題ありません。
500万円の境界線──ただし「安値の危険」は金額に関係ない
勧告制度の対象は、政令により請負代金500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の工事と定められました。店舗内装の見積もりはちょうどこの境界をまたぐ価格帯が多く、「自分の工事は対象か」を意識する意味があります。ただし誤解してはいけないのは、500万円未満なら安くさせ放題という話ではないことです。契約書の記載事項などの基本ルールは金額を問わず適用されますし、そもそも著しく安い見積もりが危険な理由(材料や人手を削らないと成立しない、工事途中の追加請求や倒産のリスク)は、法改正の前から金額に関係なく同じです。
見積書の「労務費」を見るという新習慣
改正にあわせて、材料費や労務費などの内訳を明示した見積書(材料費等記載見積書)の考え方が国の資料で示され、内訳のうち労務費が通常必要と認められる額を著しく下回っていないかが、適正さの判断材料とされるようになりました。発注者の実務に引き付けると、見積書を受け取ったら総額だけでなく、「一式」でまとめられずに材料費・施工費(労務費)・経費が分けて書かれているかを見る、という新しい習慣になります。内訳を出せる会社は原価を把握して積算している会社であり、内訳を出せない・出したがらない会社との違いは、そのまま追加請求リスクの差になって表れます。
相見積もりの目的が変わった
標準労務費の登場で、相見積もりは「最安値を探す道具」から「適正から外れた見積もりを弾く道具」へ役割が変わりました。複数社の見積もりを並べたとき、1社だけ極端に安い場合、それはお得ではなく外れ値のシグナルです。比較の実務は相見積もりの取り方・比べ方ガイドで解説しています。
新ルール②契約書──値上げのルールが法定記載事項に
「資材が上がったらどうするか」を契約書に書くことが義務化
2024年12月から、建設工事の請負契約書には、資材価格などが変動した場合の請負代金や工期の「変更方法」を記載することが法定化されました(建設業法第19条の記載事項に追加)。従来の「協議して定める」だけの曖昧な一文ではなく、どんな場合に・どういう手順で・何を根拠に変更するのかのルールを、契約の時点で決めておく趣旨です。
「おそれ情報」の事前通知──契約前の説明が制度になった
あわせて、受注者には、資材高騰などで請負代金や工期に影響が出るおそれがあるときは、契約締結までにその情報(おそれ情報)を発注者へ通知する義務が定められました。国土交通省の資料では、見積書の交付時などにあわせて通知し、書面やメールを双方が保存しておくことが望ましいとされています。さらに、実際に高騰が起きて受注者から契約変更の協議を申し出られた場合、発注者は誠実に協議に応じることが求められます。
発注者にとってこの改正は、負担であると同時に防御でもあります。ルールが契約書に明文化されていれば、工事の途中で根拠のない「言い値の追加請求」を受けたときに、契約書の変更方法条項に沿った協議(単価や数量の根拠の提示)を求める土台になるからです。逆に言えば、2025年以降の契約書に変更方法の条項が無い、おそれ情報の説明が一切無い会社は、法改正に追随できていないシグナルと読めます。
契約前チェックリスト(改正建設業法対応版)
- 契約書に「資材価格等が変動した場合の請負代金・工期の変更方法」の条項があるか
- 見積もり段階で、価格高騰の可能性(おそれ情報)について説明を受けたか。書面・メールを保存したか
- 変更が必要になった場合の協議手順(誰が・何を根拠に・いつまでに)が読み取れるか
- 追加工事が発生する場合は、着工前に金額と範囲を書面で取り交わす運用になっているか
- 契約書そのものの見方は工事請負契約書ガイドで確認したか
新ルール③工期──「開店日ありき」の圧縮は発注者が勧告される
工事を通常必要な期間より著しく短い工期で契約することは、令和2年(2020年)10月の改正で既に禁止されており、この規定は民間工事の発注者にも適用されます。違反した発注者には勧告、従わない場合は公表の仕組みがあります。そして2025年12月の改正で、受注者側も著しく短い工期での契約が禁止されました。工期の適正さは、中央建設業審議会の「工期に関する基準」が判断の物差しになります。
店舗開業では「物件の家賃発生日」や「開店予定日」から逆算して工期を圧縮したくなるのが実情です。しかし今回の改正で、無理な短工期は頼む側・受ける側の双方が違反になる構造になりました。ここから導かれる実務上の教訓は逆説的です。「その日程でも大丈夫です」と安請け合いする会社ほど、法令への感度が低い可能性があるということです。誠実な会社ほど、工程表を示して「この工期では品質を守れない」と言うようになります。開店日は先に決めるのではなく、実現可能な工程表から逆算して決める。間に合わせたい事情があるなら、工期を削るのではなく、居抜き物件の活用や工事範囲の見直しで工程そのものを設計し直すのが正攻法です。
参考として、小規模な店舗内装で最低限見込みたい工程の目安を示します(物件や工事内容で大きく変わるため、必ず工程表で個別に確認してください)。
| 工程 | 目安期間 | 短縮の余地 |
|---|---|---|
| 現地調査・設計・見積もり比較 | 3〜6週間 | 要件を先に固めれば短縮可。ここを削ると後工程が崩れる |
| 契約・資材発注・着工準備 | 1〜3週間 | 納期の長い資材(厨房機器・造作材)の先行手配で圧縮可 |
| 内装工事(10〜20坪) | 3〜8週間 | 居抜き活用・工事範囲の絞り込みで圧縮可。突貫は不可 |
| 検査・是正・引き渡し・開店準備 | 1〜2週間 | 保健所検査など行政日程は動かせない前提で組む |
発注の実務はこう変わる(見積もり・契約・交渉)
改正の内容を、発注者の行動に落とすと次の3点に集約されます。
第一に、相見積もりの使い方。複数社を比較する目的は最安探しではなく、適正レンジの把握と外れ値の検出に変わりました。安すぎる1社を選ぶことは、改正後は品質リスクに法令リスクが上乗せされた選択です。業者を見極める基準は内装業者の選び方ガイドにまとめています。
第二に、価格交渉の線引き。値引き交渉自体は改正後も禁止されていません。仕様の見直し(グレード調整・工事範囲の整理・施主支給)による減額は正当な交渉です。一方、仕様はそのままで「とにかく総額を下げて」と職人の労務費を削らせる方向の交渉は、改正が明確にNOを突き付けた領域です。この線引きの実践は内装費の値引き交渉ガイドで詳しく解説しています。
第三に、契約書と追加費用への備え。変更方法条項とおそれ情報を契約前に確認し、書面を残す。それでも追加費用のトラブルが起きたときの対処は追加費用・トラブル対処ガイドを参照してください。
従来の感覚と改正後の常識を対比すると、次のようになります。
| 場面 | 従来よくあった感覚 | 改正後の常識 |
|---|---|---|
| 見積もり比較 | 一番安い会社に決める | 適正レンジを把握し、極端に安い外れ値は理由を確認して外す |
| 価格交渉 | 仕様そのままで総額を下げさせる | 仕様・範囲・支給品の調整で下げる。労務費を削る交渉はしない |
| 契約書 | ひな形をそのまま署名 | 変更方法条項とおそれ情報の説明を確認し、記録を保存する |
| 工期 | 開店日を先に決めて詰めさせる | 工程表から逆算して開店日を決める。圧縮は工程の設計で行う |
取適法(2026年1月施行)との関係
2026年1月には、下請法を改組した取適法(中小受託取引適正化法)も施行され、価格協議に応じない一方的な単価決定の禁止などが話題になりました。ただし、建設工事の施工の委託はもともと建設業法が守備範囲としているため、取適法の対象外です。店舗の内装工事の発注に適用されるのは本ページで解説した建設業法側のルールであり、2つの法律を混同しないよう注意してください(設計やデザインのみの委託など、工事を伴わない契約は扱いが異なる場合があります)。
よくある質問
500万円未満の内装工事なら、この改正は関係ありませんか?
勧告制度の対象下限は請負500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)ですが、契約書の法定記載事項(変更方法条項)やおそれ情報の通知など基本ルールは金額を問わず適用されます。また、著しく安い見積もりが品質低下や途中の追加請求につながるリスクは、勧告対象かどうかに関係なく同じです。金額が小さいほど無関係になる話ではありません。
値引き交渉はもうできないのですか?
交渉自体は禁止されていません。禁止されたのは、通常必要と認められる労務費を著しく下回る水準まで下げさせる依頼です。仕様の調整(素材のグレード、工事範囲、施主支給の活用など)による減額交渉は引き続き正当な方法です。「何を削って安くするのか」を明確にする交渉が、改正後のスタンダードです。
契約後に「資材が上がったので増額したい」と言われました。応じる義務がありますか?
まず契約書の変更方法条項を確認してください。2024年12月以降の契約であれば、変更の手順が記載されているはずです。受注者からの協議申出には誠実に応じることが求められますが、言い値をそのまま受け入れる義務ではありません。どの資材が・いくらから・いくらに上がり、工事金額にいくら影響するのか、単価と数量の根拠資料の提示を求めたうえで協議するのが、改正法が想定する進め方です。
「おそれ情報」とは何ですか?
資材価格の高騰や供給不足などにより、請負代金や工期に影響が出る可能性があるという情報のことです。受注者は契約締結までにこれを発注者へ通知する義務があります。見積書と一緒に説明されることが多く、国土交通省の資料では書面やメールで双方が記録を残すことが望ましいとされています。説明を受けたら保存しておきましょう。
開店日が決まっています。工期を短くしてもらうのは違法ですか?
通常必要と認められる期間より著しく短い工期での契約が禁止の対象で、発注者にも勧告・公表の仕組みがあります。合理的な工程の工夫(居抜き物件の活用、工事範囲の絞り込み、設計と並行した資材手配など)で期間を詰めることは問題ありません。違うのは、工程の裏付けなく「この日までにやって」と契約で縛ることです。開店日は工程表から逆算して決めてください。
居抜きの造作譲渡や小規模な修繕にも建設業法は適用されますか?
建設工事の請負契約であれば適用されます。請負代金500万円未満の軽微な工事は施工側に建設業許可が不要というだけで、契約書面の交付(第19条)などの基本ルールの対象です。なお、造作の売買そのもの(工事を伴わない譲渡契約)は請負契約ではないため扱いが異なります。
一次情報はどこで確認できますか?
国土交通省のウェブサイトで、改正建設業法(令和6年法律第49号)の説明資料、労務費に関する基準、そして「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン」(第8版・2026年1月)が公開されています。個別の契約判断に迷う場合は、これらの資料の確認とあわせて専門家への相談をおすすめします。
工事の途中でこちらから仕様変更を頼んだ場合も、この改正と関係ありますか?
関係します。追加・変更工事も請負契約の変更であり、内容と金額を書面で取り交わすことが建設業法の基本です。発注者都合の変更で費用が増えるのは当然ですが、その金額が妥当かは、当初見積もりと同じ内訳(材料費・労務費・経費)の根拠で確認できます。口頭で「ついでにお願い」を重ねると、最後にまとめて高額な精算書が届く典型パターンになるため、変更のたびに金額を書面で確定させてください。
商業施設やビルの「B工事」(貸主指定の業者に頼む工事)にも適用されますか?
適用されます。指定業者との契約も建設工事の請負契約であることに変わりはなく、契約書面や変更方法条項、工期のルールは同じ枠組みの中にあります。ただしB工事は業者を選べない分だけ相見積もりによる牽制が働きにくいため、内訳の確認と書面の保存がいっそう重要になります。自分の工事がA・B・C工事のどれに当たるかは工事区分ABCガイドで確認してください。
まとめ──「安く・早く」から「適正に・確実に」へ
改正建設業法が発注者に求めているのは、難しい法律知識ではなく、発注の姿勢の転換です。見積もりは最安ではなく適正で選ぶ。契約書には値上げのルールが書かれているかを見る。開店日は工程表から逆算する。この3つを押さえた発注者は、勧告リスクを避けられるだけでなく、途中の追加請求や工事品質のトラブルからも構造的に遠ざかります。まずは複数社の見積もりを同じ条件で並べ、適正なレンジと外れ値を自分の目で確かめるところから始めてください。そのうえで、内訳を示せる会社・おそれ情報を説明してくれる会社・工程表で工期を語れる会社を残していけば、改正建設業法はあなたの店づくりを守る側のルールとして働きます。
適正な見積もりを、複数社の比較で確かめる
店舗内装ドットコムなら、条件を一度入力するだけで複数の内装会社から見積もりが届きます。改正法時代の「外れ値検出」にそのまま使えます。
