気に入った物件が見つかったとき、内装や費用より先に確認すべきものがあります。用途地域です。ここで引っかかると、どれだけ良い立地でもその業態では出店できません。しかも契約後に判明しても、もう戻れません。
用途地域は「どんな建物を建てられるか」を定めた地図ですが、出店者にとっての実際の意味は「この場所で、この業態の店を開けるか」の一次フィルタです。この記事では、業態別の可否早見表、多くの人が混同する3つの制度の違い、そして契約前に5分でできる調べ方までを整理します。
この記事の位置づけ
本記事は制度の概要を出店者向けに整理したものです。用途地域の指定内容や制限は自治体の都市計画・条例によって上乗せがあり、個別の建物への適用判定は市区町村の都市計画課・建築指導課、特定行政庁への確認が必要です。
この記事の要点
- 用途地域は13種類。住居系は面積・階数の制限が厳しく、商業系・工業系ほどゆるい
- 工業専用地域は飲食店・物販が不可。第一種低層住居専用地域・田園住居地域も原則として難しい
- 用途地域がOK=営業できる、ではない。都市計画法・風営法・営業許可の3つは別制度
- 居抜きで前の店が飲食店でも適法とは限らない(既存不適格・違反状態の可能性)
- 調べ方は「市区町村名+用途地域」で自治体の地図。最終確認は窓口で
用途地域とは——13種類の地図
用途地域は都市計画法にもとづく制度で、市街化区域を用途別に13種類へ区分したものです。実際に「どの用途の建物を建てられるか」は、建築基準法の別表第2で定められています。大きくは住居系・商業系・工業系の3系統です。
住居系
- 用途地域第一種低層住居専用/第二種低層住居専用/田園住居/第一種中高層住居専用/第二種中高層住居専用/第一種住居/第二種住居/準住居
- 店舗の出しやすさ厳しい〜中程度。階数と床面積の制限が段階的にゆるむ
商業系
- 用途地域近隣商業/商業
- 店舗の出しやすさゆるい。ほとんどの店舗業態が可能
工業系
- 用途地域準工業/工業/工業専用
- 店舗の出しやすさ準工業はゆるい。工業専用は飲食店・物販が不可
業態別・出店できる用途地域の早見表
出店者がいちばん知りたい部分です。○=原則可、△=階数・床面積の制限つきで可、✕=原則不可。あくまで概要で、実際の判定は建物と地域の条件によります。
第一種低層住居専用
- 飲食店
カフェ△兼用住宅50㎡以下 - 物販
美容室△兼用住宅50㎡以下 - カラオケ
遊技場✕ - 接待あり
(料理店等)✕
第二種低層住居専用
- 飲食店
カフェ△2階以下150㎡以下 - 物販
美容室△2階以下150㎡以下 - カラオケ
遊技場✕ - 接待あり
(料理店等)✕
田園住居
- 飲食店
カフェ△農産物直売所等が中心 - 物販
美容室△ - カラオケ
遊技場✕ - 接待あり
(料理店等)✕
第一種中高層住居専用
- 飲食店
カフェ△2階以下500㎡以下 - 物販
美容室△2階以下500㎡以下 - カラオケ
遊技場✕ - 接待あり
(料理店等)✕
第二種中高層住居専用
- 飲食店
カフェ△2階以下1,500㎡以下 - 物販
美容室△ - カラオケ
遊技場✕ - 接待あり
(料理店等)✕
第一種住居
- 飲食店
カフェ△3,000㎡以下 - 物販
美容室△ - カラオケ
遊技場✕ - 接待あり
(料理店等)✕
第二種住居
- 飲食店
カフェ○ - 物販
美容室○ - カラオケ
遊技場○ - 接待あり
(料理店等)✕
準住居
- 飲食店
カフェ○ - 物販
美容室○ - カラオケ
遊技場○ - 接待あり
(料理店等)✕
近隣商業
- 飲食店
カフェ○ - 物販
美容室○ - カラオケ
遊技場○ - 接待あり
(料理店等)✕
商業
- 飲食店
カフェ○ - 物販
美容室○ - カラオケ
遊技場○ - 接待あり
(料理店等)○
準工業
- 飲食店
カフェ○ - 物販
美容室○ - カラオケ
遊技場○ - 接待あり
(料理店等)○
工業
- 飲食店
カフェ○ - 物販
美容室○ - カラオケ
遊技場○ - 接待あり
(料理店等)✕
工業専用
- 飲食店
カフェ✕ - 物販
美容室✕ - カラオケ
遊技場△ - 接待あり
(料理店等)✕
※面積は用途に供する部分の床面積の目安です。診療所(19床以下)はすべての用途地域で可能とされるなど、業態ごとに扱いが異なります。数値と可否は建築基準法別表第2および自治体の条例によるため、必ず窓口でご確認ください。
「飲食店」と「料理店」は別扱い
建築基準法では、接待をともなう業態などが「料理店」として区分され、出店できるのは商業地域と準工業地域に限られるのが基本です。同じ「お酒を出す店」でも、業態の設計しだいで出せる場所が大きく変わります。バー・スナック・キャバクラ系を検討している場合は、物件を探す前に業態の位置づけを確認してください。
業態別に見た実務の勘所
早見表だけでは判断しきれない、業態ごとの実務的なポイントを整理します。
カフェ・喫茶
- 実務上の勘所住居系でも比較的通りやすい業態。ただし第二種低層住居専用地域では2階以下・150㎡以下が壁になる。10〜20坪の小型店なら面積要件に収まることが多い
飲食店(夜も営業)
- 実務上の勘所建築上は住居系でも可能な範囲があるが、深夜の酒類提供は条例で不可となるのが一般的。夜の売上を柱にするなら近隣商業・商業を軸に探す
美容室・サロン
- 実務上の勘所住居系でも出しやすい部類。第一種低層住居専用地域でも兼用住宅(50㎡以下・延べ面積の2分の1未満)の形なら可能性がある。自宅サロンの相談が多い領域
クリニック・診療所
- 実務上の勘所19床以下の診療所はすべての用途地域で可能とされ、立地の自由度が高い。一方で駐車場付置義務や条例の上乗せは別途確認が必要
物販・小売
- 実務上の勘所飲食店とおおむね同じ面積区分。大型店では1,500㎡・3,000㎡の段階が効いてくる
カラオケ・遊技場
- 実務上の勘所第二種住居地域より前は原則不可。住居系の大半で外れるため、物件探しの初期から地域を絞る必要がある
バー・スナック・接待あり
- 実務上の勘所建築上は商業・準工業に限定されるうえ、風営法の許可と学校・病院からの距離制限が重なる。最も選択肢が狭い
面積の壁は「坪」に直すと見える
150㎡は約45坪、500㎡は約151坪、1,500㎡は約454坪です。小規模の個人店(10〜20坪=33〜66㎡)であれば、第二種低層住居専用地域の150㎡以下という条件にも収まります。「住居系だから無理」と決めつける前に、自分の店の面積で当てはめてみてください。ただし階数の条件(2階以下)や上乗せ規制が別にかかります。
用途地域は「商圏の性格」も映す
用途地域は規制であると同時に、その街がどんな人で構成されているかの指標でもあります。出店戦略の観点では、こちらの読み方も重要です。
低層・中高層住居専用
- 街の性格住民中心・昼型。通行量は少ないが競合も少ない
- 向きやすい業態の傾向近隣需要型。ベーカリー、小型カフェ、美容室、クリニック
第一種・第二種住居/準住居
- 街の性格住宅と沿道商業の混在。幹線道路沿いが多い
- 向きやすい業態の傾向ロードサイド型、ファミリー向け飲食、物販
近隣商業
- 街の性格駅前・商店街。地元客の生活動線
- 向きやすい業態の傾向幅広く可能。日常使いの飲食・サービス
商業
- 街の性格繁華街・ターミナル。夜間人口と通行客が多い
- 向きやすい業態の傾向夜型飲食、バー、専門店。賃料は最も高い
準工業
- 街の性格工場と住宅の混在。賃料が比較的安い
- 向きやすい業態の傾向倉庫兼店舗、大箱、セントラルキッチン、ゴーストキッチン
つまり用途地域を調べる作業は、「出せるか」の確認であると同時に「誰に売る店になるか」の確認でもあります。住居系で夜型の業態を計画している場合、法規で弾かれなくても商圏と合わないことがあります。逆に準工業は賃料の面で有利になることがあり、業態しだいでは狙い目になります。
「用途地域OK」=「営業できる」ではない——3つの制度を分ける
ここが最も混乱しやすい部分です。店を開けるかどうかは、別々の3つの制度がそれぞれ判定します。どれか1つでも通らなければ、営業はできません。
都市計画法・建築基準法(用途地域)
- 決めることその場所に、その用途の建物を置けるか
- 主な確認先市区町村の都市計画課・建築指導課/特定行政庁
風営法(深夜酒類・風俗営業)
- 決めること深夜の酒類提供や接待をともなう営業ができるか。地域・距離の制限
- 主な確認先所轄の警察署(生活安全課)
食品衛生法など(営業許可)
- 決めることその厨房・設備で営業許可が下りるか
- 主な確認先所轄の保健所
典型的な食い違い
建築基準法では飲食店として建てられる住居系の地域でも、深夜0時以降の酒類提供は都道府県の条例で認められないのが一般的です。「用途地域は問題なかったのに、深夜営業ができないと後から分かった」という事故は、この二層構造を知らないことから起きます。夜の売上を前提にした事業計画なら、物件を決める前に所轄警察署へ相談してください。
契約前にできる調べ方
「市区町村名+用途地域」で検索すると、多くの自治体が色分けされた地図を公開しています。物件の住所を入力すれば、その場でおおよその区分がわかります。
上の早見表で、狙う業態と床面積・階数を確認します。この段階では「進めてよいか」の見当をつけるだけで十分です。
特別用途地区、地区計画、風致地区、条例による独自制限がないかを地図と窓口で確認します。地図に出ない規制もあるため、ここは窓口が確実です。
都市計画課で用途地域と上乗せ規制、必要に応じて所轄警察署・保健所へ相談。内装会社にも物件情報を渡し、用途変更の要否まで含めて見てもらいます。
見落とされやすい5つの落とし穴
- ①前の店が飲食店だった——適法性の証明にはなりません。都市計画の変更で現在の基準に合わなくなっている(既存不適格)ことも、まれに違反状態のまま営業していたこともあります。
- ②敷地が2つの用途地域にまたがる——過半を占めるほうの制限が敷地全体に適用されるのが原則です。境界付近の物件では判定が変わることがあります。
- ③特別用途地区・地区計画の上乗せ——用途地域の上に、自治体が独自の制限を重ねている場合があります。文教地区でパチンコ店が制限される、といった例が典型です。
- ④床面積の数え方——制限は「用途に供する部分の床面積」で判断されます。バックヤードや階段の扱いで結論が変わることがあり、設計者の確認が必要です。
- ⑤用途地域が指定されていない区域——市街化調整区域などでは、そもそも建築自体に別の制限がかかります。「用途地域がない=自由」ではありません。
市街化調整区域と「用途地域なし」の扱い
地図を見て「色が塗られていない」場合、2つの可能性があります。ひとつは市街化調整区域——市街化を抑える区域で、そもそも建築自体に厳しい制限がかかります。既存の建物を使う場合でも、用途を変えるには許可が必要になることが多く、店舗としての利用は簡単ではありません。
もうひとつは非線引き区域(区域区分が定められていない都市計画区域)や都市計画区域外で、こちらは用途地域による用途制限が働かない一方、建築基準法の他の規定や自治体の条例は適用されます。郊外・地方の物件では珍しくないため、「制限がない」と早合点せず、必ず窓口で扱いを確認してください。
用途地域をクリアしたあとに続くもの
用途地域は入口にすぎません。ここを通ったあと、出店までに次の関門が待っています。
用途変更の手続き
- 内容他用途から飲食店などへ変える場合、延べ面積200㎡超で手続きが必要になることがある
- 詳しくは工期・スケジュール
内装制限
- 内容壁・天井の仕上げ材を不燃・準不燃などの等級にする規制
- 詳しくは内装制限ガイド
工事区分
- 内容ビル・商業施設では、貸主指定のB工事が費用と工程を左右する
- 詳しくは工事区分ガイド
営業許可・検査
- 内容保健所の検査、消防関係の届出。日程は所轄の状況しだい
- 詳しくは逆算スケジュール
費用全体の見通しは店舗内装の費用相場ガイドにまとめています。
出店者の実務——内装会社に聞く「3つの質問」
住所を渡して、用途地域と上乗せ規制まで調べて答えられるか。物件探しの段階から相談に乗れる会社かどうかが出ます。
前用途と面積から要否を判断できるか。必要な場合の期間と費用まで示せる会社は、工程管理も期待できます。
契約前に現地を見てもらえれば、用途地域だけでなく設備・排気・電気容量まで一度に確認できます。ここが最大の事故防止策です。
内見のときに確認しておくこと
- 物件の住所(地番まで)——用途地域の確認に必要
- 建物の延べ面積と階数、借りる区画の床面積
- 前の用途(飲食店か、事務所か、物販か)——用途変更の要否に直結
- 検査済証の有無と、増改築の履歴が追えるか
- 深夜営業・音出しの計画がある場合、周辺の住宅との距離
- 看板を出す位置と大きさ(自治体の屋外広告物条例が別にかかる)
よくある失敗3型
- 契約してから調べる——手付金を払った後に業態不可が判明し、違約金を払って撤退する型。内見の段階で住所から調べれば5分で防げます。
- 用途地域だけ見て安心する——建築上は可能でも、深夜酒類提供が条例で不可となり、夜の売上前提の計画が崩れる型。3制度を分けて確認します。
- 居抜きを適法の証拠だと思う——前店の営業実績を根拠に確認を省き、後から是正を求められる型。自分で調べ直すことが唯一の対策です。
よくある質問
用途地域とは何ですか?
都市計画法にもとづき、市街化区域を13種類に区分して、建てられる建物の用途を定めた制度です。住居系8種類・商業系2種類・工業系3種類に分かれ、具体的にどの用途の建物を建てられるかは建築基準法の別表第2で定められています。店舗の出店では「この場所でこの業態を開けるか」を左右する、最初の関門になります。
飲食店を出せない用途地域はどこですか?
一般的に、第一種低層住居専用地域・田園住居地域は原則として難しく、工業専用地域では飲食店の建築が認められていません。第二種低層住居専用地域から第一種住居地域までは、階数と床面積の制限つきで可能とされています。実際の判定は建物や地域の条件で変わるため、市区町村の都市計画課・建築指導課への確認が必要です。
居抜きで前の店も飲食店だったなら大丈夫ですか?
そうとは限りません。過去の建築時点では適法でも、その後の都市計画変更で現在の基準に合わなくなっている(既存不適格)ことがあります。また、まれに違反状態のまま営業していた例もあります。前店の営業実績は適法性の証明にならないため、契約前に必ず自分で確認してください。
バーや居酒屋は用途地域だけ見ればいいですか?
いいえ。深夜0時以降もお酒を提供する営業は、風営法にもとづく届出が必要で、都道府県の条例により住居系の地域では営業できないのが一般的です。建築基準法上は飲食店として建てられる場所でも、深夜営業ができない、という食い違いが起こります。確認先は所轄の警察署(生活安全課)です。
接待をともなう店は制限が厳しいのですか?
はい。キャバレー・ナイトクラブや、接待をともなういわゆる料理店に当たる業態は、建築基準法上、商業地域と準工業地域に限られるのが基本です。加えて風営法の許可と、学校・病院の周辺での距離制限が別にかかります。業態の判断自体が難しいため、計画段階で所轄警察署への相談をおすすめします。
用途地域はどうやって調べればいいですか?
市区町村名と「用途地域」で検索すると、多くの自治体が都市計画情報の地図をインターネットで公開しています。物件の住所を地図上で確認すれば、その場でおおよそ把握できます。ただし公開地図は参考情報であることが多く、特別用途地区や地区計画などの上乗せ規制もあるため、最終確認は都市計画課の窓口で行ってください。
敷地が2つの用途地域にまたがる場合はどうなりますか?
敷地の過半を占めるほうの用途地域の制限が、敷地全体に適用されるのが原則です。この判定は面積の測り方によって変わることがあるため、またがりが疑われる物件では、設計者と特定行政庁への確認が欠かせません。
用途地域がクリアできれば内装工事はすぐ始められますか?
用途地域は入口です。このあと、建物の用途を変える場合の手続き(用途変更)、壁と天井の仕上げ材の等級(内装制限)、ビル側との工事区分の調整、保健所・消防の検査が続きます。物件契約からオープンまでは、スケルトンで3〜4ヶ月みておくのが現実的です。
物件の住所と業態を伝えれば、用途地域や用途変更の要否も含めて、店舗の施工実績がある会社に無料でまとめて相談できます。
一次情報・確認先
- 都市計画法(e-Gov法令検索)——第9条ほか(用途地域の定義)
- 建築基準法(e-Gov法令検索)——第48条・別表第2(用途地域内の建築物の制限)
- 市区町村の都市計画課・建築指導課/所轄の警察署(生活安全課)/所轄の保健所
免責と確認のお願い
本記事は2026年7月時点の制度の概要を整理したものです。用途地域の指定・制限内容は自治体および条例により異なり、法令改正によっても変わります。実際の出店判断は、市区町村の窓口と建築士等の専門家への確認にもとづいて行ってください。
運営:店舗内装ドットコム(運営会社情報)|最終更新日:2026年7月23日
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