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飲食店の照明——30秒の結論
- 基本は電球色(色温度2700〜3000K)。料理と肌がいちばん美味しく見える帯で、迷ったらこの範囲から出ない
- 設計の核は「空間は落とし、テーブルを照らす」二層設計——店全体を均一に明るくせず、テーブル面にだけ光を集めると、料理が主役になり滞在の居心地も上がる
- 料理の色を正しく出すには演色性Ra90以上のLEDを客席・料理まわりに。刺身の赤・野菜の緑の見え方が変わる
- 営業時間帯が長い店は調光(できれば調色)を最初から回路設計に入れる。後付けは配線からやり直しになりやすい
1. 料理を照らし、空間は落とす——飲食店照明の二層設計
飲食店の照明でいちばん多い失敗は「全体をまんべんなく明るくする」ことです。オフィスのような均一照明では、料理も客の顔も背景に沈み、落ち着きも生まれません。プロの設計は逆で、①空間全体の明るさは思い切って絞り、②テーブル面(料理が置かれる高さ)へ狭角のダウンライトやペンダントで光を集める——この二層で組みます。皿の上だけが明るい状態を作ると、料理は舞台の主役のように立ち上がり、周囲が暗いぶん相対的に輝いて見えます。同時に、テーブルごとに光だまりができることで席の「領域」が生まれ、隣席との心理的距離も確保できます。二層設計は高級店だけの技法ではなく、カフェでも居酒屋でも配光(光の広がり角)の選び方だけで実現できます。
配光角の選び方——「集める光」と「広げる光」
二層設計を器具に落とすときの要は配光角(ビーム角)です。テーブル面を照らすダウンライトは狭角(集光タイプ)を選び、皿の並ぶ範囲だけに光を落とします。広角(拡散タイプ)を使うと光が通路まで広がり、せっかく絞った空間がまた明るくなってしまう——二層が崩れる典型パターンです。天井が高い店ほど光は届くまでに広がるため、より狭角を選ぶのが基本。逆にベース照明や間接照明は広角・面発光で「うっすら全体」を受け持たせます。器具カタログの配光角表記(狭角・中角・広角、または度数)を、テーブル用とベース用で意識的に分けて指定してください。
2. 色温度|2700〜3000Kが飲食の基準線
色温度は照明の「色味」を表す数値で、低いほどオレンジに、高いほど白〜青白くなります。飲食店の基準線は電球色の2700〜3000K——温かみのある光は料理の暖色(焼き色・出汁の色・肉の赤)を引き立て、人の肌もきれいに見せます。白色(4000K前後)〜昼白色(5000K)は清潔感・スピード感の演出には向きますが、料理の艶や陰影は出にくく、長居する業態には不向きです。使い分けの目安は「回転で回す店ほど白く、滞在で稼ぐ店ほどオレンジに」。同じ空間に色温度の違う光を無計画に混ぜると安っぽく見えるため、ゾーンごとに色温度を揃えるのが原則です(厨房内は作業性優先で白くてよく、客席から見える範囲だけ電球色に揃えます)。
3. 演色性(Ra)|料理の色を決める見えない数値
同じ電球色でも、LEDには「色をどれだけ忠実に見せるか」の性能差があり、これが演色評価数Raです。客席・料理を照らす灯りはRa90以上を目安にしてください。Raの低い照明では刺身の赤がくすみ、サラダの緑が沈み、写真映えも落ちます。器具のカタログに必ず記載がある数値なので、デザインだけでなくRaで選ぶ——これは費用がほとんど変わらないのに効果が大きい、費用対効果最強の指定項目です。
4. 器具と手法|ペンダント・ダウン・間接・ダクトレール
主役はテーブル上のペンダントライト(席の真上に吊るし、光だまりと店の表情を同時に作る)と狭角ダウンライト(天井をすっきり保ちつつテーブル面へ集光)。脇役として、壁や棚を照らす間接照明が空間の奥行きと「暗すぎない暗さ」を作ります。ペンダントの吊り高さは「座った目線より下に光源が来ない」範囲で、テーブル面に近づけるほど光だまりは濃くなります。器具のセード形状と合わせて、着席状態での見え方を現場で必ず確認してください。レイアウト変更が多い店やテーブル配置が未確定の段階ではダクトレール(ライティングレール)が有効で、スポットの位置・数を後から動かせます。注意点はグレア(眩しさ)——客の目線に光源が直接入る配置は居心地を壊すため、ペンダントはセードで光源を隠す、スポットは目線を外して壁や卓面に向ける、が基本作法です。
5. 業態別の作り方
カフェ——昼は自然光と馴染む3000K前後で明るめ、夜は照度を落として滞在の質を上げる「二毛作」が理想。調光調色(色温度も変えられるLED)を入れると一つの器具で昼夜を切り替えられます(カフェの内装ガイド)。居酒屋——活気が商品。全体はやや明るめの電球色にし、卓上・カウンターの手元をさらに照らして「賑わいが見える」状態を作ります。提灯・裸電球など光源そのものを見せる演出も相性が良い業態です(居酒屋の内装ガイド)。バー・隠れ家業態——照度を最小限まで絞り、バックバーの棚照明と手元の点光源で構成。暗さそのものが商品になるため、通路の足元だけ安全用に確保します。和食・和モダン——行灯・間接光で陰影を作る「暗さの設計」が核心です(和モダン内装の完全ガイド)。ファストフード・食堂——回転が命なので例外的に明るく均一でよく、清潔感のある白系も選択肢に入ります。ラーメン・中華など湯気の多い業態は、湯気に光の筋が見える演出(カウンター上の狭角スポット)が食欲の追い風になります。
6. 照明計画の実務|決めるタイミングと工事区分
照明計画は内装デザインの「仕上げ」ではなく、レイアウト確定と同時に決めるのが正解です。テーブル位置が決まらないとペンダントもダウンライトも位置が打てず、後からの移設は天井の開口・配線やり直しになって費用が跳ねます。実務の順序は「①テーブルレイアウト確定 → ②テーブルごとの照らし方(ペンダントかダウンか)を決定 → ③ベース・間接・調光回路を設計 → ④内装工事と同時施工」。調光を入れる場合は回路分け(客席・カウンター・間接を別回路に)を図面段階で指定してください。なお天井・電気配線の工事は借主手配の工事(C工事)になるのが一般的ですが、ビルによって扱いが異なるため、A工事・B工事・C工事の違いで区分を確認してから発注するのが安全です。照明は電気工事を伴うため、器具支給でも取付・配線は資格を持つ業者の領域です。
7. メニュー・看板・ファサードの照明
客席の設計と同時に決めたいのが「読む光」と「呼ぶ光」です。メニューブックの手元は、空間を暗くする店ほど意識的に確保します——卓上のペンダント直下で読めるか、文字サイズとセットで検証を。ファサード・看板の照明は夜の集客装置そのもので、外から見えるあかり(窓越しの店内のペンダント・入口の行灯・看板灯)が「営業中で、感じの良い店」を無言で伝えます。店内をどれだけ作り込んでも、外から真っ暗に見えれば入店は生まれません。内装の照明計画と同じタイミングで、外観側の灯りまで一枚の図面で考えるのが定石です。
8. 昼光との付き合い方——窓際と西日
窓のある店は、昼は自然光が主役です。昼光は演色性が最も高い光なので、ランチ帯は窓際を活かし、人工照明は影を埋める補助に回します。問題は夕方——西日はグレアと熱の両面で客席の敵になるため、ブラインドやシェードで制御できる窓装備を内装段階で仕込みます。そして日没後は照明の時間帯です。調光(調色)を入れておけば、同じ空間を「昼は明るいカフェ、夜は落ち着いたダイニング」に切り替えられ、客単価の異なる二毛作営業が照明だけで成立します。切替はスイッチ操作で迷わないよう、シーン設定(昼/夜のプリセット)まで電気業者に依頼しておくと運用が楽です。
9. 費用の考え方
照明の費用は「器具代+取付・配線工事」で構成され、器具のグレード(デザイン器具か汎用か)、ダウンライトの個数、調光・調色の有無、ダクトレールの長さで大きく変わります。金額はデザインの方針次第で桁が動く領域なので、単価表を鵜呑みにするより、照明計画込みの内装見積もりを複数社で比較し、「器具をどこまで施主支給にできるか」「調光の範囲をどこまで絞るか」で調整するのが実務的です。
10. よくある失敗3つ
- 明るすぎ・均一すぎ——「暗いとクレームが来そう」で全体を照らし、ファミレスでも高級店でもない中途半端な空間に。暗さはテーブル面の明るさとセットなら武器になる
- 色温度の無計画な混在——既存器具と追加器具で電球色と白色が混ざり、安っぽい印象に。ゾーンごとに色温度を統一する
- 調光・回路分けの後回し——営業を始めてから「夜だけ落としたい」と気づいても、配線からやり直し。開業時に回路だけでも仕込んでおく
よくある質問
Q. 飲食店の照明は何色(何K)がいいですか?
A. 基本は電球色の2700〜3000Kです。回転重視の業態のみ、白系(4000K前後)も選択肢になります。同一ゾーン内での色温度の混在は避けてください。
Q. 暗めの照明にしたいが、クレームが心配です。
A. 「空間の暗さ」と「テーブル面の明るさ」を分けて設計すれば両立します。手元が十分明るければ、空間が暗くても食事に支障は出ません。メニューの文字サイズと手元照度だけは確保しましょう。
Q. ダクトレールとダウンライト、どちらが良いですか?
A. レイアウトが固まっているならダウンライトが天井もすっきりして本命です。席替え・模様替えの可能性がある店、物販併設で照らす対象が変わる店はダクトレールの可変性が効きます。両者の併用(ベースはダウン、可変部だけレール)も定番です。
Q. 照明はいつ決めればいいですか?
A. テーブルレイアウトの確定と同時です。内装の仕上げ段階での変更は天井開口・配線のやり直しになり割高です。
